ひどい病気には思い切った処置を。

□おはようございます。
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「Hey! In the morning. Get up!」(やぁ! 朝だぞ。起きて!)
「ぅ……」


外から響く声で、私は目が覚めた。昨日はあれから色々な場所を案内してもらって、色んな人に会ったことは覚えてる。いつの間にか眠っていたから夜の記憶はあまりないが。目をこすり軽く髪を整えながら扉を開けると、レノックスさんが苦笑していた。


「Good morning. How are you?」(おはよう。調子はどうだ?)
「グッモーニン……」
「Oh……Optimus! She got up. Come here!」
(あぁ……オプティマス! 彼女が起きた。こっち来てくれ!)



レノックスさんが叫ぶと、ガシャンガシャンという音と共に青い巨体がやってきた。オプティマスさんだ。彼の姿を確認したレノックスさんは何か言いながら去っていった。


『おはよう、咲涼。眠れたか?』
「とても眠れました」


着替えてきますね、と告げ部屋に戻った。部屋に備え付けてあったクローゼットにはまだ何も詰めてない。自宅から持ってきた荷物を開け放ち、お気に入りのつなぎを着込んだ。普段着も少し持ってきたけど活躍は少なそうだ。つなぎばっかりになってしまうだろう。

顔を洗って髪をとかした。髪はねてるかも、でもオプティマスさんを待たせてるし……うん、気にするほどじゃない!


「お待たせしました!」
『いや、大丈夫だ。それでは行こうか。私の手に乗るといい』
「あっ……失礼します」


差し出された手のひら。マッドフラップよりも大きく、寝転んでも余るくらいではないだろうか。私を乗せたオプティマスさんはゆっくり歩き出す。この大きな状態をまじまじと見るのは初めてだ。ちらりと盗み見ると、顔は精悍であることがうかがえた。人間なら耳がついているところには、通信機器にも見えるものがついていて、獣の耳みたいで可愛く見える。


『私の顔に何かついているだろうか』
「な、なにも!」


慌てて視線をそらすと、そうかと頭上から聞こえた。

オプティマスさんはかっこいい。金属の光沢であったり、傷が多いボディであったり、何を取っても。私が座る手だって傷だらけ。彼らに血が通っているのかは分からないけれど、痛みはあるはずだ。


「そういえば、オプティマスさんはどうして地球に居るんですか?」
『話すと長くなるが……今は、地球の復興をし、平和を保つためだ。一時期はディセプティコン……敵と戦ったりもしたが、今では和平を結んで、彼らも仲間となっている』
「そのひとたちと、会えますか?」
『あぁ、会いたいと言うのなら当然掛け合おう。いずれにせよ彼らは紹介しなければならないからな』
「やった!」


少し楽しみだ。敵だったというから怖そうだけど、それでも今は仲間なんだから、きっと悪いひとじゃない。いや、でも性根は腐ってそうだなぁ。こんなこと言うと失礼だけど。


……単純に考えて、今は敵は居ないということだろうか? それなら私の家を半壊にしたあれは何だったのだろう?明らかな敵意を感じたし、むしろ敵意はないですと言われたって信じられない。


「……私達が襲われたあれは何だったんですか? 敵じゃないんですか?」


オプティマスさんは口を重く開いた。話すのが嫌そうというか、苦々しい。



『……あれは、敵の残党だ。ディセプティコンの多くは我々と共に来てくれたが、中には強い意志を持った者もいた。ディセプティコンのリーダーの話も聞き入れないほど。奴らは今でもああやって我々の邪魔をしては、地球を占領しようと足掻いている。以前とは状況が違うと解っているはずなのに』



私は彼らじゃないからはっきりとは分からないけれど、きっと意地があるのだろう。それでも私は命が惜しいから、死にたくないから、仲間になることを選ぶはずだ。だって、昨日、銀色のあれは、ぐったりと倒れてしまった。その後どうなったかは知らない。だけどあのひとの命はあの時点で途絶えてしまっただろう。

そんなふうになりたくない。どんな形でも生きていたい。そう思ってしまう。


『Optimus.』
『Ironhide.』


超スピード、急ブレーキで登場した黒いトップキック。カシャカシャと変形し、彼は腕を組んだ。キュイーンという駆動音が聞こえてきそうなほど彼の目が動く。


『あんまり遅いから来てみれば、人間を連れていたのか。ビークルモードになれば早いだろ』
『あぁ……そうだな』


人間って。ここには人間いっぱい居るでしょうに。昨日来たばかりだから名前を覚えられていないのはいいけれど、せめて新人とかって言い方があるんじゃないだろうか。


オプティマスさんは私を下ろして、すぐに車になった。アイアンハイドさんは既にどこかへ行ってしまったみたい。せっかちなひとだ。


『アイアンハイドは不器用なのだ。しかし根は良い』


確かに、そんな面はうかがえる。オプティマスさんに用事があるなら英語で話せばいい。今までずっと英語を話していたのだろうし、私にわざわざ伝える必要もない。だけど彼は日本語で話した。理由は何にせよ、確実に優しさから来る行為だ。

なんてひとだろう。ひとを見た目で判断してはいけないとはよく言ったものだ。








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