ひどい病気には思い切った処置を。

□医務室は大変!
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「へぇ、バンブルビーは、そのサムって子が大好きなんだね」
『《Of course!》《もちろんさ》』


バンブルビーは軽快な音楽を流し、ノリノリに体を揺らした。彼の負傷の様子を見ていたラチェットさんが「動くんじゃない!」と怒ったので大人しくなったものの、バンブルビーがそのサムくんを慕うのはよく分かった。

先程話してくれた内容によると、最近はサムくんとあまり会えていないようだが、それでも連絡は取り合っているそうだ。一度会ってみたい。


「ねぇ、私は?」
『《I love you》《心から愛し、親しみを感じているよ》』
「ほんと? 私もバンブルビーのこと好きだよ!」


可愛くて強い。ラチェットさんが戦闘中の映像を見せてくれたけど、そのときのバンブルビーは普段の可愛さからは想像も出来ない荒々しさだった。ギャップがまたいい。すてきだ。


『《彼は?》』
「彼、って」
『《Prime》』


プライム。……そうだった、彼はオプティマス・プライムだ。オプティマスさんと呼んでいるから、なかなか結びつかない。


「そりゃあ、オプティマスさんのことも好きだよ。ラチェットさんも、サイドスワイプも、ジャズも……みんなみんな好き」
『嬉しい言葉だ』


ラチェットさんは時々『健康のチェックをしよう』と言いながら怪しげな機械を取り出すのをやめてくれればもっと好きだ。なんなのあの機械、絶対あぶない。


苦い記憶を思い出していたら、不意に医務室の扉が開いた。そこに居たのは銀色の体で赤い目をしたトランスフォーマーらしき大きな誰か。みんな青い目なのに、あのひとは赤い目なのはどうして?


『It's unusual to come here.』(ここに来るのは珍しいな)
『My arm come off.』(腕が取れた)
『OK. Wait a moment.……咲涼、そこのドライバーを持ってきてくれるかい』


よく分からないけれど、ウェイト、と言っていたので、銀色のあのひとはひとまず放置のようだ。私は指示された通りに私の身長ほどあるドライバーを抱え、彼の手元に持っていく。広げられたラチェットさんの手に乗せると、彼はそれでバンブルビーの体を調節していく。

「わ、ぅわっ!?」


その様子を見ていた私は、突然体がふわりと浮いて、足をばたつかせた。どこかを掴まれている気がする! なに!


『What is this?』(何だこれは?)
「ま、マイネームイズ、咲涼、水無月……!」


さきほどの赤い目のひとだった。でかい! もしかしてオプティマスさんと同じくらいか、それ以上ではなかろうか。横にも縦にもでかい。すごい。

彼はじろじろと私を眺める。そんなに見たって面白くないよ、だから離して!


『彼はディセプティコンのリーダー、メガトロンだ。彼の右腕はどうも外れやすくてね、こうしてやって来たようだ』
「このひとが、メガトロンさんですか……!」


どうりで怖いわけだ。顔が凶悪というか、いかにも強さを誇示してきそうな感じ。この大きさも、リーダーならば納得できる。……腕が取れやすいって、なんでだろう?


メガトロンさんは飽きたのか私をぽいっと投げた。比較的柔らかい診察台が着地地点だったから全身を打ち付けても何とか良かったものの、硬い鋼鉄に当たったらどうするんだ。責任をとってくれるのか。


『この女は確かプライムのお気に入りだろう。俺が壊してやろうか』
「えっ」
『やめろ、その腕治してやらないぞ』


日本語だ。メガトロンさんは怖そうな雰囲気だけど、実はとっても優しいんじゃないかな、きっとそうだ。あぁもう、ここのひと達は皆優しいんだから。見た目はいかついけど心はそんなことない。


「メガトロンさん」
『俺様のことを気安く呼ぶな!』
『《あぁ、なんて傲慢なの!》《お前は王などではない!》』
『貴様! やかましいぞ!』
『メガトロン』


握り拳をバンブルビーに向けはするが、実力行使はしなかった。イライラしたように舌打ちをして、呼び止めたラチェットさん、次にバンブルビー、最後に私を見て『さっさと腕を治せ!』と怒鳴る。すぐ怒る! 更年期か何かなの?


「ラチェットさん、あの腕はどうしたら……?」
『なに、適当に繋げば自然と元に戻る』


雑だなぁ! と思ったけど、以前からそうだった。むしろバラすのが好きで、何かと理由をつけてはその腕の電動ノコギリでバラしてしまう。もちろん、最後にはきちんと綺麗に戻すんだけど、私は犠牲者の断末魔を聞きたくなくてこっそり抜け出す。帰ったときに彼らを慰めては謝り倒す日々だ。


『コイツは俺達のドクターよりはマシだ』
「えぇっ!? ラチェットさん、結構マッドなのに……」
『どういう意味だ? 咲涼』
「いや別に、全然、なにも! ラチェット先生、大好きだよ!」
『ははは、嬉しいね』


口では笑い声を出していても、目が笑っていなかった。







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