ひどい病気には思い切った処置を。

□綺麗に洗い流しましょう。
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「車の整備だって聞いてたのに」
『似たようなものだろう』
「ちがうよ……」


トランスフォーマーの面々が揃う格納庫。今日は車の整備だとかをすると聞いていたから、格納庫に来るのもさほど疑問ではなかった。しかし実際にやれと言われたのはなんだ。全然整備じゃない。洗車だ。何ならもう一度言ってもいい、洗車だ。


『すまない。どうしても洗車をしてほしくてね。それが終われば整備に移ってもらって構わないんだが』


ロボットモードで小さく手を合わせるラチェットさん。その動作があまりにも似合わず、逆に可愛く見えてしまう。あのラチェットさんが手を合わせて謝っているんだぞ。


「洗車も好きですからね! いいですよ! もちろん! ……念の為聞きますけど、全員やるんですか?」
『そうだ』
「ここに並んでるひと、全員?」
『そうだ』


各々の定位置と思われる場所に並んだ、様々な車。紹介してもらった人数よりは確実に多い。初めましての人がまぁ居るようだ。

本当に洗車は嫌いじゃない。しかしこの人数は多すぎるのではなかろうか。私一人で行うと、たぶん車の整備までは手が回らない。気が遠くなりそう。


「……なんでこんなに汚れてるの!?」


近くにあった赤のフェラーリ。高級車と一言で言っても、当然様々な車があるわけだが、ぱっと思い浮かべるのはフェラーリではないだろうか。特に赤は代表のような色だ。真っ赤でピカピカな車体は目をひくし、カッコイイ。

そんな、いつだって輝いているはずのフェラーリが、今はどうだ。砂埃を車体にまとわせた奇天烈な風貌となっているではないか。


『触るな。俺はやらんでいい。定位置についているだけだ』
「何言ってるんですか!? こんな汚れたまま街中走るわけじゃないですよね! まさか!」


ありえない! これは徹底的な洗浄が必要だ。あぁ、よく見れば他の人たちも汚い。どこで何をしたらそうなるんだ。小学生じゃあるまいし。


「ラチェットさん。私、見違えるほどピカピカにします、全員、絶対に!」
『その意気だ、頑張ってくれ』


ラチェットさんの声援を受け、私は腕をまくって色々と準備をした。洗剤とスポンジだったり、そうだ、タオル類は大量に必要だ。それからワックスも塗った方がいいだろう。どうせ大変ならそこまでやった方がいい。高圧洗浄機なんかがあったら少し便利だったかもしれないが、ここにはないらしい。


『キャノン砲ならあるが』
「今の私には必要ないですね!」


わざわざ変形してまでキャノン砲を見せつけて。自慢なのは分かりましたから! あなた、何回私に突きつけてくる気ですか! キャノン砲が高圧洗浄機の代わりになるわけないでしょ!


「ではまずはディーノさんから始めます」
『なぁ、俺たちはこのまま待機?』
「いや、ひとりひとり洗車すると時間がかかっちゃうので、自由に過ごしていてください!」


私がそういうなり、ロボットモードになったり、はたまたビークルモードのまま移動したり、好きにし始めた。洗車以外にも大事なことは沢山ある。中には慌てた様子で格納庫を出ていくひとも居た。引き留めてしまって申し訳ない。

なにも、今日洗車しなくても良かったのではないか。それぞれの都合がつく日にそれぞれでやれば……まさかそれが全員今日だったわけじゃあるまいし。そんなことを考えながら、何気なくボンネットに触れた。目立った傷はなさそう。


『やめろ! 人間が俺に触るな!』


目の前のロッソは形を変えロボットになっていく。現れた顔は他のみんなより怖く感じた。あのアイアンハイドさんよりもだ。

ディーノさんは腕のブレードで空中を切ったかと思うと、素早くこちらに向かって突きつけて……寸でのところで、止まった。少しでも前に進めば私の顔にその刃が刺さることであろう。それほどギリギリの場所だった。

気圧された私は後ろに倒れそうになってしまったが、ロボットモードのスキッズが受け止めてくれたおかげでそうはならなかった。そこでマッドフラップとの喧嘩が始まったのは考えるまでもない。


「す、すみません……」


思わず謝ると彼は鼻で笑った。馬鹿にしたように。……なんで私が謝っているんだ? 洗車が嫌ならここに居なければいい。それをしない彼だって悪いのではないか?


「オプティマスさんにチクってやる……」
『なっ……ふざけるな! 報告する必要はないだろ!』
「いいえ! 逐一報告することは大事ですよ! “ホウレンソウ”は社会人のマナーですから!」
『くっ……』



結局、ディーノさんが折れて洗車をさせてもらえた。ピカピカの車体は惚れ惚れするほどかっこよかった。

ラチェットさんやジャズたちも当然キレイにした。格納庫はたちまち輝き始めて、時折やってきた隊員さんが「Amazing!」と声をもらすくらいには変わった。これなら私も頑張った甲斐がある。


「オプティマスさんもできたらいいんだけど……」
『オプティマスはずば抜けて忙しい。時間をつくるのは難しいかもな』


ジャズの言葉に頷いた。彼も時々戦いに出ているらしい。その他にデスクワークに勤しんだりするのだから、休む暇もないかもしれない。仕事以外に大切なことはたくさんあるけど、彼にとっては司令官として動くことが一番なのではないだろうか。






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