ひどい病気には思い切った処置を。

□まぁ色々あった日でした。
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今日はずっと洗車してばかりだった。気付けば夜になっていたし、整備に向かうことはできなかったし、だけど楽しい日でもあった。

まず、女性のトランスフォーマーに出会った。バイクに変形する彼女たちは三人で同じ人格を共有しているという。しかしそれぞれで名前も見た目も違っていて、なんだか不思議だ。喋り方とかはほとんど一緒なんだけど。ツインズのように双子ないし三つ子だというわけでもない。


それから、ディセプティコンのひとたちとも交流を深められた。パトカーに変形するバリケードさんや、例のスタースクリームさんなど、話したことの無いひとたちと話せたのは本当に良かったと思う。バリケードさんが変形しているあの車があまりにもかっこ良くて変な声が出てしまったことは、ここだけの秘密だ。スタースクリームさんは戦闘機に変形していたため、どう洗えばいいのか分からず、申し訳ないが適当にやらせてもらった。噂通りの嫌な感じのひと……ではなく、想像よりも柔らかい雰囲気だった。だけどはっきり虫ケラと言われてしまい、やっぱり嫌な感じだ。


なかでも親しくなれたのは、フレンジーとホィーリーだ。ふたりはとても小柄で、ラジカセなどに変形していた。だから水をかけて洗うことはできなかったけど、キレイに磨いておいた。

私よりも小さいトランスフォーマーに初めて出会ったので、少し驚いた。みんなあんなに大きいものなんだと思っていたから。色んなひとが居るんだね。


どちらも私のことを好いてくれたみたいだった。私もふたりが好き。だけどふたり自体は仲がよくないみたいで、喧嘩が起きたりもしたんだけど……好かれている、というのが嬉しくて、思わず笑ってしまった。


「……ふふ」


廊下を歩きながら思い出し笑いをもらした。ちょうど周りには誰も居なかったので良かったが、万が一聞かれていたら、一人で笑っているやばい奴になってしまう。気をつけなければ。


とにかく今日はずっと動いてばかりで疲れた。お風呂でさっぱり綺麗になって美味しい夕飯も頂いたことだし、さっさと部屋に戻って明日の準備をして寝るのが吉だ。

そう思って足取りを早めたとき、ポケットのスマホがお気に入りのメロディを流した。オプティマスさんからの着信。もしもし? と電話に出ると、彼の低い『《オプティマス・プライムだ》』という声が聞こえてくる。わざわざフルネームで答えなくても。また笑いそうになってしまう。今日はツボが浅い。


「どうしたんですか?」
『《いや……少し声が聞きたくなった。迷惑だっただろうか》』
「迷惑だったら最初から電話に出たりしませんよ!」


それに、そもそも連絡先を教えたりもしないだろう。オプティマスさんだから何の迷いもなくそれが出来るのであり、仮にツインズに連絡先を教えてくれ、と言われたら戸惑うかもしれない。だってあの子たち、5分ごとに電話をかけてきそうだもん。メールの量もやばそう。


「だけど同じ敷地内に居るんですし、どうせ話すならオプティマスさんのお部屋行きますよ」


トランスフォーマーが任務に行っているときに話が少しでもできたら、と思っただけで、直接話したくないから電話という手段を使いたいわけではない。会える距離なら会った方がいい。その方が話しやすいし、落ち着く。


『《だが、それでは咲涼が遠回りに……》』
「それならオプティマスさんだって毎朝来てくれてるじゃないですか」


私の部屋と彼の執務室は決して近くはなかった。執務室は格納庫に近い位置だが、私の部屋はほぼ真逆にあり、広いNEST基地では歩くのも一苦労だ。だからトランスフォーマーの誰かに乗せてもらえるときは本当に助かる。

オプティマスさんも私も電話を切らなかったため、移動している間も通話したままだった。走っているから息切れが酷くて、とても話せるような状況ではなかったけど。だけどオプティマスさんが少し話してくれていて、私はそれを聞いていた。


『バタバタうるさいと思えば虫ケラか』
「メガトロン、さん」


近くの角から現れた大きな銀色。彼は私を一瞥してなんの感情もなく呟いた。


『何をしている』
「私、急いでるんです」
『……、どこへ?』
「オプティマスさんの、部屋です」


フン、と鼻で笑われたかと思えば突然首根っこをつままれ、驚きのあまりスマホを落としそうになった。下ろしてください!と騒ぐ私。電話越しにオプティマスさんが焦ったような声で『《どうした!》』と聞いてくるけれど、とても答えられそうにない。


「メガトロンさん!」
『やかましいぞ。この高さから落としても構わんのか』


それは。……そっと下を見る。物凄く高い。いやだ! 死んでしまう! 大人しくしますからやめて。

冷静さを取り戻して、電話の向こうのオプティマスさんに呼びかけた。だけど返事はない。通話が切られているわけでもなく、だけど向こうから一切の音が聞こえてこない。


『咲涼! 何があった!』
「あ! オプティマスさん!」


つままれた私を挟み、オプティマスさんとメガトロンさんが向かい合った。オプティマスさんの雰囲気が険悪だ。やばい感じ……?と変な汗をかいていたら、メガトロンさんは私を放り投げた。


「あぁあっ!?」


差し出されたオプティマスさんの手のひらに全身を打ち付けて着地した。いたい。なんで投げるの。扱いがあまりにも雑だ。この前だって投げただろ! 最低だ!


『虫ケラを一人で歩かせるな!』


メガトロンさんが怒鳴ってどこかへ去ってしまう。なんであんなに怒ってるんだろう。私がそんなに邪魔だったとか?


『大丈夫か? 怪我は?』
「なにもないです! オプティマスさんが受け止めてくれたので」


ささいなトラブルはあったものの、オプティマスさんと会えたので結果オーライだと思うことにした。






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