ひどい病気には思い切った処置を。

□ハロー、ディセップ!
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私はただ歩いているだけだった。ラチェットさんと医務室で仕事をするか、車の整備をするか、どうするべきなのか考えていただけだった。ラチェットさんは『今日は任務に行く者も少ないから、こちらに来なくても大丈夫だよ』とは言ってくれたし、久々に車をいじりたい、とは思う。だから整備に行こう! そうしよう! と結論づけた。

はずだったが、どうして今、パトカーに乗っているのか。


「えぇっと、バリケードさん、ですよね?」
『……』


返事はない。マスタングベースのパトカーはこの基地にひとりしか居ないし、赤い目はディセプティコンの彼らである証拠。これがバリケードさんでないわけはないのだが。とりあえず手首にかかる重さが気になって仕方ない。

廊下を歩いていて、突然手錠をかけられたかと思えば、パトカーに拉致される。一瞬でこの状況に持ち込まれ混乱しないはずもなく、ただシートの柔らかさを感じていた。


「フレンジー、どういうこと?」
『……』
「へぇ、無視するんだ。バリケードさんどころかフレンジーまで!」


膝の上のラジカセ。パトカーに押し込まれたときに、さりげなく乗ってきたフレンジーである。別に乗るくらいどうということはない。ラジカセなんて物凄く重いわけじゃないし。だけど何の事情の説明もなしにこんなことされて、不安よりも苛立ちが勝る。


「なんなの! ねぇ、下ろして!」


どれだけ暴れても下ろしてもらえなかった。少なくとも殺されることはないだろうと思うけれど、やっぱり怖かった。

やがて格納庫に着いて、むりやり車外に押し出された。そしてたくさんのディセプティコンに囲まれる。スタースクリームさん、ショックウェーブさん、サウンドウェーブさん、ここまで私を連れてきたバリケードさん……そしてリーダー、メガトロンさん。


「なんですか! やる気ですか!?」
『相変わらずやかましい奴だ』


メガトロンさんはやれやれと言った様子で首を振る。誰のせいだよっ。


『ここまで来させたのは他でもない。プライムの弱みを握るためだ』
「……オプティマスさんの?」


彼らにとってはオプティマスさんは敵だったんだろうし、その頃に弱みを握ろうっていうなら分かるけど、今は仲間なんだから別に弱みなんか握らなくても……。そもそも本気で言っているのか?


「私なんて大したことも知らないですよ、役に立ちません」
『貴様を捕獲しておくだけで十分だ』


また私をつまんで持ち上げるメガトロンさん。もうこれにも慣れてきた。せいぜい「服が伸びちゃうなぁ」と思うくらいだ。


『一度だけ貴様に忠告してやる。ディセプティコンがNESTに居るのは平和協定を結んだからだ。オートボットと仲良しこよしをしたいわけじゃない。戦いは終わったが、いつでも裏切りは起こりうるのだ。……油断するな。いつどこで何をされるか分からんぞ』


話は終わったと放り投げられるお決まりのパターン。今日は受け止めてくれるひとが居ないから死ぬ。こんな鋼鉄の床に叩きつけられれば臓物がてんでバラバラになってしまう。こわい。さよならみんな。


「……わぁあ! 生きてる!」
『誰が殺すか』


どこかに全身が当たったかと思えばするりするりと体が滑って、見事に地面に着地した。後ろを振り返るとよく分からない、大きな触手のようなものが滑り台のようにカーブを描いていた。これのおかげで私は安全なのだが、ちょっと……え、なにこれ……ちょっと……きもちわるい……。


「触手……ほんとにあるんだ……」
『ドリラーだ』
「ど、ドリラー? 触手の名前が?」
『そうだ』


単眼、紫色の体、という特徴的なショックウェーブさん。軽く触手の先端を撫で付けながら言った。ドリラー自身にどうやら意思はあるようで、嬉しいのかなんなのか、くねくねと動いている。私もありがとうと言って撫でてみたら、触手のうちの1本が体に巻き付き、ふわりと体が浮いた。

触手というと不気味だが、思ったほど気持ち悪くない。意外といい子だ。


『そのまま拘束しておけ』
「えっ」
『冗談だ』


ショックウェーブさんも冗談なんて言うんだ。冗談には聞こえなかったけど。こんなことしてたらオートボットが黙ってないぞ! 誰かひとりくらい助けてくれる! はず! たぶん!


「私、ほんとにここに居る意味ありますか……?」
『やかましい』
「メガトロンさんはそれしか言わないですね」
『貴様!』
「いや! スタースクリームさん!」


メガトロンさんを悪く言おうものならスタースクリームさんが黙ってない。オートボットはオプティマスさんを慕うように、ディセプティコンはメガトロンさんを慕っている。スタースクリームさんは慕っているのか怪しいけれど、とにかく過激派が多いのなんのって。

頭を掴まれそうになったところで、ドリラーがぐるんと動きその手をすり抜けた。グッジョブだ。偉い、ドリラー!



そんな風に戯れているうちに時間はすぎていった。ちゃんと食堂に連れて行ってもらえたし、腕の調子が悪いというサウンドウェーブさんの様子を見たり、それなりに役に立てたのではないかと思う。夜には無事部屋に戻り、結局のところ何だったのか分からなかった。






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