ひどい病気には思い切った処置を。

□すれちがい。
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「大丈夫か?」
「はい……何とか……」


オプティマスさんは私を離すことはなかった。視線を上げてオプティマスさんを見ると彼もこちらを見ていて、かち合った瞳に胸が高鳴る。

彼は私を持ち上げて、自分の膝の上で横抱きにした。ちょうどお姫様抱っこのように……いや、まさにそれ。


「恥ずかしい、ん、ですけどっ……!」
「この体勢が一番近くていい」


顔もよく見える、と額にキスを落とすオプティマスさんに、私の心臓はばっくばくで破裂しそう。もうとっくに手遅れかもしれない。


「咲涼、私は……とても嬉しい。本当に、とても」
「え……?」


噛み締めるように呟くオプティマスさん。その表情はどこか悲しげで、それを見ると恥ずかしさなんて吹き飛んだ。

どうしてそんな顔してるの……?


「実を言うと……いや……失望させたくは、ないんだが……」


やけに言葉を濁している。言おうか言うまいか悩んでいる。あんまりいい内容じゃないんだな……ちょっと聞きたくない、けど……。


「そこまで言ったなら、正直に、言ってください」


オプティマスさんは目を閉じて小さく唸る。そして意を決したようにこちらを見た。


「……実を言うと、咲涼は私のことがあまり好きではないんだと、そう思っていた」
「……、…………えっ?」


うそ。そんなわけない。なんでそうなるの? なんで、なんでそう思ったの?

私、好きだって、言ってなかったっけ。言わないでお付き合い、始めたっけ。あれっ、えっ?


「な、んで、そうなるん、ですか……?」
「やけに距離を置こうとして……触れ合いを、避けているような気がして……」
「それはっ、それは、オプティマスさんに、仕事をちゃんとしてほしくてっ」


私がここに居たらくっついて離れてくれなくて、やっと書類整理を始めたかと思えばまた……。

そういうのが多かったから、ジャズ達だって困ってたから、それじゃいけないと思って……。


「わ、わたしも、オプティマスさんと一緒にっ、い、居たいけどっ、お、おぷてぃます、さんは、司令官、で、わたしとはぜんぜん、立場が、違うしっ、それに……、それにっ……!」
「咲涼!?」
「うぅ……うぁぁあ……」


目の前がぼやける。喋ることすらおぼつかなくて、ひっく、としゃくりあげるのが止まらない。袖で溢れる涙を拭い取るが、次から次へとぽろぽろ流れて私の頬はべちゃべちゃだ。


「擦ってはいけない! 痛めてしまう……」


驚いた様子のオプティマスさんは私の腕を掴んだ。代わりにハンカチを取り出し優しく目元に当てる。


「わたし、わたし、自分なりに好きだって、伝えてたつもりだったのに、ぜんぜん伝わってないんだっ……ごめんなさい、わたしっ……」
「泣かないでくれ! そんな顔をさせたかったわけじゃない……」


分かってる、分かってる。
私が悪いのだ。オプティマスさんを不安にさせるような態度だった。付き合って早々に距離を置きましょうなんて嫌に決まってる。
当然だ、私の考えが至らなかった。

好きだと言っていても、そんな態度じゃ伝わるはずもない。


「わたしっ、恋人とかぜんぜん居たことないしっ、普通のカップルはどう過ごしてるのかも、よく分からなくて……」


しかもこれって、社内恋愛……じゃない?
私は、少し前までたった一人で小さな店を開いてただけ。バイトなんかはしたことあるけど、正直なところまともな正社員はやったことがないのだ。

だから社内恋愛などという難易度の高いものに対応できない。

お互いにここで働いていて、お互いにここで寝泊まりしているから、どこからどこまでを仕事と線引きすればいいのか分からない。


「そもそも、お付き合いって、何をしたらいいか……デートとか、それくらいしか思いつかないし……愛情表現? だって、好きですって言うか、ハグくらいしかできなくて……キスも、まだちょっと恥ずかしいしっ! その先、なんて、考えるだけで…………オプティマスさん?」


オプティマスさんは何も言わない。身動きひとつせず、わずかな反応もない。私が早口でまくし立てているせいかと思って顔を覗くと、彼の大きな手のひらに頭を支えられて唇が重ねられた。


「んっ!?」


驚いて目を見開く。彼の青く輝く瞳が視界にいっぱいになって、目を閉じて逃げることもせずにその綺麗な光を見つめていた。

はぁ、とわずかに息をついた隙に舌が入り込んで、私の舌を絡めとってしまう。柔らかいけど冷たくて、私の熱を奪いながらひとつの生き物みたいに動き回った。

頭がくらくらする。オプティマスさんに応えたくても、彼に翻弄されるばかりでちっとも上手くいかない。


「はっ……ぁ……んっ……」
「っ……ふっ……」


仕方がないからされるがまま、熱くてとろけちゃいそうなキスに身を任せることにした。考えることは放棄して、彼のコートをきゅっと掴んだ。

甘くてふわふわして、ずっとこのままで居たいと思うような気持ちよさだった。でもだんだん息が苦しくなってきて、目を閉じて耐えても限界がやってきて、もうむりってところでオプティマスさんの胸を拳で叩く。
叩くと言っても力が入らないから、彼にとっては痛くも痒くもないんだろうけど。


「はぁっ……! はぁ……ぁ……」


名残惜しそうに離された唇は濡れていて、わずかに赤くなった頬と寄せられた眉間のしわ、強い光を帯びる細められた瞳……その全てが、なんというか……扇情的、だった。






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