ひどい病気には思い切った処置を。

□ご心配おかけしました!
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「《仲直りは済んだ?》」
「うん、上手く言えないけど、良くなったと思う」


明日もデートするんだ、と隣を歩くバンブルビーに自慢すると、彼は「《やれやれだ》《僕の気持ちも知らないでさ》」なんて首を振る。


「バンブルビーとは今度ね」
「《OK, princess》」


医務室に着くと、中ではアイアンハイドさんとラチェットさんが何やら話していた。ラチェットさんはこちらに気付くと小さく手を振る。アイアンハイドさんはもちろん無言。


『遅かったじゃないか』
「バンブルビーと話していたら楽しくって。のんびり歩いてきました」
『おやおや、とんだ重役出勤だ』


バンブルビーは「《カップルはいいわね、羨ましいわ》《お幸せに〜》」と手を振って去っていく。医務室に着くまでの楽しいお喋りは終わったのだ。また会ったら話そうね。


『昨日はどうだった?』
「おふたりの話はもういいんですか?」
『あぁ、大丈夫だよ』


診察台をよじ登ってラチェットさんの近くに座る。昨日のことを思い出しながら、どこからどこまで話したらいいかと悩んだ。

全部話すのもあれだし、うーん……。


「オプティマスさんには、私の気持ちがちゃんと伝わってなかったみたいで。昨日色々話して、解決はしたと思います」
『それは良かった。アイアンハイドも一安心じゃないか?』
『あぁ』


その話をしてたのかな? さっきの様子だと、重要な話よりは世間話をしているような雰囲気だったから。


『さっき書類を届けに行ったが、顔つきがまるで別人だった。ついこの間までは酷い顔をしていたのに、今日はずいぶん血色が良かった。機嫌も良さそうだったしな』
『ほぉ? 一体何を話したのやら』


からかうような視線。ひみつです。私達の大切な話だったんですから! あぁ、でももちろん言えることもある。


「明日デートするんです!」
『デート! いいじゃないか。医務室は私に任せて楽しんでくるといい』
「はい!」
『咲涼が居ないと少し寂しいんだがね、仕方ない』


医務室での仕事も、私はそれほど役に立っているとは思えない。でもラチェットさんは『手伝ってくれるから仕事の捗り具合はずいぶん違うよ』とフォローしてくれるし、確かに全く仕事ができないわけでもないし……暇つぶしのお相手くらいはできていると思う。

私にとっても医務室は慣れ親しんだ場所で、ここに居るのが落ち着く。


「可愛い服とかないけど、髪型はアーシーさんたちに手伝ってもらおうと思って」
『アーシーズ? ……アイアンハイド、アーシーズは居たか?』
『彼女達は今、任務でオーストラリアだ』
「オーストラリア!?」


帰ってくるのは四日後くらいか、と言うアイアンハイドさんの言葉に絶望する。

そんな……私、おしゃれ髪なんてできないよ……。諦めてこのまま行こうかなぁ。自分でやるのは難しいけど、三つ編みなら何とかなるかも。


『仕方ない。明日の朝、食事を済ませてすぐ医務室に来るように。手先は器用だからね、私が何とかしてみせよう』
「いいんですか!? ありがとう!」


ラチェットさん……神様ですか……!?


『オプティマスは言うまでもないが、ラチェットも大概だな』


呆れたように言うアイアンハイドさんに、ラチェットさんは何故か自慢げに返した。


『それはそうだろう! 医務室で毎日手伝ってもらっているんだ、情は移るさ。何より、悩みや不満を聞いた数はオプティマスより私の方が多いはずだ』


確かに。何かあったらラチェットさんに聞いてもらっていた。そのとき医務室に居た他のひとも一緒になって聞いてくれるし、思えばたくさんのひとに助けられている。


「お父さんみたいなのはラチェットさんだったかぁ」
『父親か……あぁ、それも悪くないね。オプティマスが君を傷つけるようなら、私があらゆるセンサーを引きちぎってやろう』
「あははっ! こわっ!」


でも頼もしい。私がオプティマスさんを殴る元気すらなかったら、お願いしようかな。

オプティマスさんと一緒に居るのは落ち着く。でもラチェットさんは違う安心感があるんだ。それがまたお父さんっぽいのかもしれない。


『いやいや、かなり本気さ。オプティマスは大切な仲間だが、咲涼も大切な仲間だからね』


ラチェットさんの言葉に胸がじーんとして、ちょっと泣きそうになった。仲間、仲間……いい響きだなぁ。

そんな気持ちに水を差したのはアイアンハイドさん。


『おい、逆のことも考えろ』
「逆?」
『お前がオプティマスを傷つけたときのことだ。今回のことは水に流すが、次オプティマスの手を煩わせたらキャノン砲をぶち込んでやる』


腕を大きなキャノン砲に変形させ突きつけてくるアイアンハイドさん。これが放たれたら私なんて一瞬で消えるだろう。それはさすがに怖い。

ふん、と機嫌が悪そうに医務室を出ていくアイアンハイドさんの背中を見送り、残された私達は顔を見合わせた。


『……アイツはオプティマスのことを大切に思っている。地球と人間を守るという司令官の信念を、誰よりも尊重している。ジャズや私よりもね』
「そうなんだ……」


やっぱりアイアンハイドさんは良いひとだ。優しくて強いひと。彼なら本当に私を消し炭にしてしまいそうだから、そんなことが起きないように気をつけなきゃ。

愛しいオプティマスさんを、もう傷つけたくはない。


『そんなことを抜きにしても、アイツはオプティマスの恋を応援しているだけなんだがね』
「やっ優しい!」






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