ひどい病気には思い切った処置を。

□Why is my lover so cute?
1ページ/1ページ





「そういえばオプティマス、この前の敵ってどうなったの?」
「この前の敵?」


ラチェットのおつかいとやらで執務室にやってきた咲涼が、デスクに書類を置いて疑問符を浮かべた。

身振り手振りで「あの、ほら、空を飛んでた、バラの模様があった飛行機!」と何故かあたふたしながら言う咲涼がとても可愛らしい。

そんな私の考えが顔に出ていたのか、彼女は「聞いてる?」とやや怒った顔になる。それもまた可愛い。

駄目なのだ。私は咲涼に弱いから、彼女が何をしても愛おしく感じてしまう。一瞬も見逃したくない。


しかしあまり返事もせずに咲涼を眺めていると彼女が怒ってしまう。話を聞いていないからと、小さな口で目一杯の暴言を吐いて部屋を出ていってしまう。つい先日それがまさに起きたのだ。


「……その敵なら、もう片は付いている」


彼女の説明を聞いて、ブレインサーキットはすぐに答えを見つけ出す。膨大な知識が渦巻いていようとも、たった一つを掴み取る能力もまた優れているのが我々トランスフォーマーだ。


彼女の言う敵は、ディセプティコンの残党のことだろう。三日前に始末した奴の特徴と同じだ。

あれはサイドスワイプかディーノかバンブルビーか……彼らのような若い者に任せて良い案件だった。奴の実力ならばオートボットの戦士の足元にも及ばない。
だが私はあいつに借りがあった。

──よりにもよってデート前日に姿を現すなど許せるものか。今でも思い出すと怒りが湧いてくる。


そんな私とは裏腹に、咲涼はほっとしたように息をついた。


「良かったぁ! ここに居れば安全だって分かってるんだけど、やっぱり怖くて……」


その手は震えていた。

咲涼は、家を壊したあの凶暴なディセプティコンが忘れられないのだろう。
当然だ。未知のものは恐ろしい。自分の常識で測れないものは、いつだって。

ましてや彼女よりも大きな体で強い力を持つ、突然現れた……化け物を、簡単に受け入れられるはずないのだ。

あのときの恐怖はきっと消えることはない。


「……咲涼のことは、私が必ず守る。怪我の一つでもさせたときは、私を許さないでくれ」
「オプティマス……」


敬称のない呼び方。ずっと丁寧な接し方だったのがこうやって崩れてきて、最近ようやく慣れたようだった。何度聴いても心地よい。


「怪我くらい、平気だよ。傷はいつかは治るから! オプティマスも、怪我は私達が治してあげる。だから……ちゃんと帰ってきてね」


もちろんだと頷く。

君を残して消えたりはしない。私が帰るべき場所は咲涼のそばだ。


「咲涼、少しこっちに来てくれないか」
「? なに?」


不思議そうな顔でこちらに近寄る咲涼。その小さな体を捕まえ自分の腕に閉じ込める。柔らかくて、力いっぱい抱きしめると潰してしまいそうな体。

愛しい。「急にどうしたの」と、驚きながらも照れたように笑う咲涼が、とても愛しい。
毎日のように思うのだ。彼女が人間ではなくこの私を選んでくれたことは……これ以上ない幸運だと。


「咲涼……」
「ひゃぁ! ははっ」


たまらなくなって首筋や耳にキスをする。咲涼は妙な声をあげながら、唇が触れる度にくすぐったそうに笑っていた。


「オプティマス、そろそろ私は戻らないと!」
「……咲涼もここで仕事をすればいい」


本当に。私の秘書という形で咲涼を執務室勤務にできないだろうか。

咲涼は首を振った。


「英語もまともにできないのに、ここでできることなんて少ないよ。それに……」


耳元へ近づき、小さく囁く。


「……書類を口実にして、仕事中にイチャイチャするのが楽しいんだもん」


頬を赤く染めながらも、いたずらっ子のような笑みを浮かべる咲涼。
…………なんてことだ。奥手な彼女は時折こうやって私の心を掻き乱す。わざとやっているのか? もしわざとでないのなら、それはそれで困ったものだ。


「……今が仕事中でなければベッドに誘っていた」
「ぇ、と……今はだめ、です」


分かっている。分かっているが、私だってこれでも男なのだ。好きな女性とそういうことをしたいと思うのは当然だ。

もちろん無理にはしたくないので、咲涼の気持ちがまとまるまでは待つことにしている。彼女と過ごせる時間が何よりも大切なのであって、彼女と身体的に繋がることが目的ではないのだから。


「わ、私も、オプティマスとしたいとは思う、けど! まだ覚悟ができていない、ので! 今度、お、お願いします!」


咲涼は顔を真っ赤にして執務室を出ていった。

ブレインサーキットがぴたりと止まり思考もままならず、ややしばらく咲涼の出ていった扉を見つめていた。




──Why is my lover so cute?
(なぜ私の恋人はこんなにも可愛いんだ?)


(私の理性が正常で良かった。彼女の前では紳士的でありたいものだ。……耐えられる限りは。)







次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]