main Book story 〜切なくて甘い
□もつれ合う糸
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あの日から 一週間
いつもと変わらないBARで
時間だけが ただ過ぎて行く
一方的に別れてしまった彼からは
あの日 すぐにメールが届いていた
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レイ 今まで ありがとう
理由は聞かない。
俺にも悪いところが沢山あったから
お互い恨みっこ無し!
良い未来でまた 笑って会おう!
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とても明るくてポジティブだった
彼らしい 別れのメールだった
こんなワガママな私の幸せを願ってくれる
そんな彼もまた傷つけてしまった
バカな私…
あれから ミンジュンはBARには
姿を見せなかった
レイ:
やっぱり 後悔してるのかな…
独り言が思わず漏れる
マスター:
なに店で暗い顔してんだ
お客様に失礼じゃないか
相談なら後で沢山聞いてやるから
仕事はシャキッとしろ シャキッと!ハハッ
いつも通りの店内
いつもと変わらないマスターの声
変わってしまったのは 私
そしていつもの席に居ないミンジュン
それから また何日か経ち
相変わらず ボーッと仕事をしていると
フロントに見慣れた影…
ジュノ:
レイ久しぶり!
俺に会えなくて寂しかった?
レイ:
いらっしゃいませ。
ジュノ 久しぶりだね!
寂しかったよ…笑
カウンターへどうぞ
ジュノ:
今日はカウンターじゃなくて
向こうのテーブルでもいいかな?
そう言って ジュノはお店の一番奥の
2人用のテーブル席に指をさす
レイ:
2人席だけど、誰か連れが来るの?
ジュノ:
俺だけの場所を探そうと思って❤︎
手が空いたらレイも席に来てくれる?
ウチのBARはマスターの人の良さで
手が空いた時は お客様にお呼ばれして
一緒にお酒を頂いてもいい事になっていた
レイ:
それが目的?
わかった 後で行くから 少し待ってて 笑
ジュノ:
OK!
とりあえず オススメのカクテル
2つ持って来てね
レイに任せるから
レイ:
はーい アルコールは弱めだね❤︎笑
ジュノをテーブル席に案内して
カウンターに戻り
シェイカーを振っていると
また見慣れた背中と
もう一人
初めて見る人が店に入って来た
ミンジュン…?
マスターが2人に駆け寄り対応する
マスター:
よく来たね 久しぶり!
2人はどこに座る?
テーブルに行くか?
ミンジュン:
すぐ帰るから
いつものカウンターで大丈夫だよ
一緒に居た人はミンジュンの雰囲気に似た
優しそうな上品で綺麗な人だった
ミンジュン:
サナ、ここに座って
サナ:
ありがとう
とても大事そうに 名前を呼ぶ
ミンジュンが女性のコートを預かり
優しくカウンターの椅子を引いて
エスコートする
その仕草を見て 私はすぐに気づく
あの人が
”ミンジュンの奥さん”
ミンジュンは私には視線を向けず
マスターだけを見る
マスター:
今日はあれか!
結婚記念日か!
サナ:
そうなの。
久々におじさんの顔が見たくて
ワガママ言って来ちゃった❤︎
綺麗なのに 気さくで 良い人そうだ
私なんか敵わない
敵うわけない…
そんな完璧な奥さんを見て
シェイカーを振る手も完全に止まっていた
マスター:
レイ! レイ!
ご挨拶して! 初めてだろ?
ミンジュンの奥さんのサナだよ
レイ:
あっ!すみません
あまりにも綺麗な方だったので
見とれちゃいました// あははっ
サナ:
ふふっ 可愛い方
レイ:
お二人共 いらっしゃいませ。
ごゆっくりどうぞ
私は他の仕事がありますので
失礼しますね
ミンジュン:
ありがとう…
目を合わせずに
そう小さく呟くミンジュンの声が
鮮明に耳に残った
精一杯の作り笑顔で2人に頭を下げて
挨拶を早々と済ませ
私は耐え切れずに
2人の姿が見えない
ジュノの待つテーブルへ
逃げるように足早に向った
レイ:
待たせて ごめんね!
私も一杯頂いてもいいかな?
のど乾いちゃった
ジュノのテーブル席についた私は
2人の影をジュノの後ろに隠すようにして
まっすぐジュノを見つめた
ジュノへ甘めのカクテルを渡し
自分には少しアルコールを強めに作ったカクテルを
一気にのどの奥へ流し込んだ
ジュノ:
もしかして 今来たのは
兄貴と姉さんかな?
レイ:
うん、知らなかったの?
すごい偶然だね
ご挨拶しなくても大丈夫?
ジュノ:
2人とも 俺には気づいてないから
雰囲気を壊すことはしないよ
レイ:
綺麗な…人だね
思わず口から出ていた
ジュノ:
うん? 姉さんが?
ああ見えて 家では怖いんだよ…笑
それと俺はレイの方が綺麗だと思うけど❤︎
レイ:
お世辞なんて いらない
揺れそうになる瞳を
必死に笑顔で隠しながら
ジュノの声を聞いた
2人の会話は聞きたくない…
並んだ背中も見たくない…
ジュノ:
今日はやけに 俺の顔を見つめるんだね
レイ:
え!? そうかな… 考え過ぎだよ〜
ごまかすように 笑う
ジュノ:
どうしてそんなに落ち着かないの?
何かあったの?
レイ:
なに言ってるの? なにも無いよ
私 いつもと同じじゃない?
ジュノ:
俺には レイが泣いてるように見えるよ
ジュノは何かを知ってるの?
見透かされたような言葉に動揺する
レイ:
ジュノ また悪い冗談だね…
そう言って笑うと
ジュノの大きな手が私の頬を撫でた
ジュノ:
じゃあ、この涙は何?
レイ:
え…?
私 泣いてたの…
笑えてなかった?
ふと見ると
私の頬を撫でたジュノの手が
濡れている事に気づく
レイ:
ごめん!急になんなんだろ
目が乾いちゃったかな
ただのドライアイだから
全然 気にしないでね!!
慌てて言い訳すると
ジュノ:
レイは嘘が下手だな
そんなに 兄貴のことが好き?
気づかれた
ジュノが気づいてしまった
隠しきれないミンジュンへの気持ちに
レイ:
なに言ってるの、好きじゃないよ
よく見て…
幸せそうじゃない あの2人
誰も入る隙なんて無いじゃない
揺れる瞳で 冗談ぽく笑う私
私の少し震える手を
温かく大きな手でそっと包むジュノ
ジュノ:
俺じゃ ダメなの?
そんなに違う?
俺を選んで
そしたら絶対に 泣かせないよ
レイ:
ジュノ!もう この話は終わり!
本気にしないでっ
全部 冗談だから、冗談
本当 笑っちゃう
そんなことを言ってると
遠くで
カウンターの2人が席を立つのが見えた
ミンジュン:
マスター チェックしてくれないか
サナ もう遅くなるから帰ろう
サナ:
もう帰るの?
って私のワガママで来たし
明日も仕事だから
仕方ないわね