main Book story 〜切なくて甘い

□奪えない瞳
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《ジュノ side》



マスター:
レイ お見送りしてあげて


マスターがレイを呼ぶと


俺が握っていた 少し震える手は



簡単に俺の手から抜け出し



振り向きもせず



レイ:
はい…



そう小さな声でマスターに返事をして



足早に2人の背中を追うレイ



レイの瞳に


兄貴しか映っていないのは


もう随分前から 勘づいていた…







俺が初めてBARに来た時



レイ:
いらっしゃいませ
初めまして レイと申します
シェイカーも振れますので
リクエストがあれば
お好みのカクテルもご用意しますね




自己紹介をしながら


柔らかな笑顔を見せる君



ミンジュン:
僕の弟なんだ…
宜しくね



俺が話す前に 兄貴が静かに答える



ジュノ:
レイさん、
俺ジュノって言います 宜しくね!
兄貴とは少し年が離れてるけど
正真正銘 弟です
兄貴と俺 似てないでしょ? あはは



兄貴とは対照的に


BARの少し堅苦しい雰囲気を崩し


おちゃらけたように話かける



レイ:
ジュノさん よろしくお願いします
ミンジュンさんに 似ていますよ
お二人共 本当に綺麗なお顔で//




兄貴の方をチラチラ気にしながら


少し頬を赤らめているレイ



ああ… 俺より兄貴がタイプなわけね。



分かりやすい レイの反応で



すぐに気づく



そんなレイを遊び心で



少し俺に振り向かせてみたくなったんだ





ジュノ:
ていうか、まだ若いよね?
俺と同じくらいに見えるけど
レイって呼んでいい?
堅苦しい雰囲気は苦手でさ
俺のこともジュノって呼んでいいから




初対面で少し戸惑いながら



遠慮がちに




レイ:
そうですね ははっ
ジュノさんは明るい方ですね
私のことは好きに呼んでくださいね




ジュノ:
だからぁ、 さん は付けなくていいし!
タメ語でもっと気軽に話してよ



ミンジュン:
初対面で無理言うなよ
まだ 友達でもないだろ
ここに連れてくるのは
まだ早かったかな



兄貴が少し笑いながら


掴んだグラスに目線を落とし


俺にそう言った



ジュノ:
子供扱いかよ
俺だって もう立派な大人だよ



ミンジュン:
ははっ こんなことで ムキになる
お前のどこが大人だよ



レイは俺たちの話を聞きながら



ずっと兄貴の方を見つめている



てか、俺は完全に眼中に無しかよ!



ジュノ:
レイは毎週店に出てるの?
休みの日っていつかな?



レイ:
え⁉︎ あ、私は日曜日だけ
お休みを頂いてますよ
それ以外は出勤してます



ジュノ:
じゃあ、レイがいる時に
また来ていいかな?



そう言うと兄貴が何か言いたそうに



チラッと流し目で 俺を見た




レイ:
もちろんです!
いつでもお待ちしてます!



ジュノ:
レイとは話しやすいし
すぐ 友達になれそう♪



しばらくレイと話をした後



その明るくて 柔らかい笑顔と



優しい口調に段々と



レイの事が気になりはじめた俺がいた



ミンジュン:
僕はそろそろ帰るよ
お前はどうする?



いつもより低く 少し苛立つような


兄貴の声が引っかかった



ジュノ:
俺も一緒に帰るよ
レイ またね❤︎




レイ:
うん、ジュノさん!
じゃなくて…
ジュノ また来てね




その声に兄貴のグラスを握る指が反応した気がしたけど



その時はあまり深く気に留めなかった



レイもすっかり打ち解けてくれて


本当に気軽に話をしてくれるようになったし


俺は満足して 兄貴と店を出る



店のドアを出て



角を曲がったエレベーターの前まで



レイが見送りをしてくれた



さすが高級なBARだな



最後までしっかり接客がされるんだ



エレベーターの扉が開き



レイがニッコリ笑って手を振る



少し酒に弱い俺は上機嫌になっていて



エレベーターに乗り込む前に



レイの両肩を掴んで



不思議そうに首を傾げるレイの頬に



軽く挨拶がわりにチュッと唇を寄せ



耳元で


” またすぐ会いたい… ”


そう囁いた



レイ:
ジュノっ!!//////



レイは驚いて顔を赤くしながら



俺が触れた頬を押さえ



大きな瞳で俺を見た



ジュノ:
やっと俺だけを真っ直ぐ見た あはは



ミンジュン:
ジュノ‼︎ 飲み過ぎだぞ
弟がいきなり ごめんね



兄貴の少し焦った声を



ジュノ:
ごめん ごめん 可愛くてつい…



酒に酔ったふりして 聞き流した




もしかしたら あの日



レイに一目惚れだったのかもしれない



兄貴に熱視線を送る


その瞳が


届かぬ想いに


傷ついてしまう前に


俺だけに向けたくて


仕方なくなったんだ







BARに通いはじめて


何度も誘いを断わられながら



やっと君と2人の場所を見つけたのに



少し焦ったように 俺の前に座り



俺を見つめる君の瞳に



涙が一筋流れるのを見た



気づいていないのか



ずっと 笑顔で話し続けるレイ



少し震える手は グラスを強く握りしめ



一気に酒を飲み干した



俺を見ているようで



見ていない



レイは俺の後ろを気にしていて



横目でカウンターを見ると



そこには 兄貴と姉さんの姿が見えた




レイ:
綺麗な… 人だね。



ふいにレイの口から出る言葉と



揺れる瞳が 俺の胸を切なく締め付けて



頬に流れた涙を覆い隠すように



俺はレイの頬に手をあてたんだ



その震える手を



俺の熱くなった手で包み込み



レイの心を少しでも


救ってやりたいと思った




見送りに立ったレイの帰りが遅くて



心配になり 俺も席を立ち



エレベーターの前に向かうと



上を向いて 涙を堪えるレイがいた



声をかけようと 近づくと



誰かに腕を掴まれて



レイがエレベーターの中へと入る


閉じていくエレベーターの中に



愛しそうにレイを抱きしめる



兄貴の姿と


兄貴の腕の中で涙を流す


レイの姿見た…



俺はレイに伸ばせなかった手を



グッと強く握りしめ



2人を乗せたエレベーターを見送り



その場にただ 立ち尽くすことしか



出来なかった
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