〜非日常的学園生活〜

□記憶の道を辿ろうか。 7
1ページ/1ページ


「本当に、優クンなの…?」
「そうだよ。覚えててくれてよかった…。」

狛枝を優の方へ近づくと真正面からしっかりと、彼の顔を覗き込んだ。
二人の姿を、ただただ日向は一人で見つめる。二人の展開について行けない日向が「あ…。」と何かに気づいたかのように顔を上げた。
その声に反応した狛枝が日向に顔を向けた。

「どう、したの日向クン。」
「思い出した。ユウって、オレと初めて会った時にお前が呼んだ名前だよな。」
「え、あ…。」

しまった。という顔の狛枝に、ますます日向の機嫌が悪くなっていくのが見て読み取れた。
3人の、しかも男子のグループが道の真ん中で険悪な空気をかもし出しているとあって周りの人間はさっと下を向きながら通り過ぎていく。
まあ、その空気をつくっているのはほとんど日向なのだが。

「よかったな、本当の幼馴染に会えて。」

さっきまでの不機嫌さはどこに行ったと思うをどの笑顔をつくり一歩、後ろに下がった。
『本当の』という言葉が狛枝の心臓をえぐる感じがした。少し傷ついたの小ささではない。狛枝の笑顔が崩れた気がした。
言葉の暴力とはこの事なのかもしれない。

「…何、本当の、って。」
「何って、そのままだろ?」
「それじゃあ、キミが幼馴染じゃなくて失望したみたいな言い方じゃないか。」
「…だって、悲しかったんだよッ!!」


初めてだった。日向が泣く姿を見たのは。
いつもみんなのリーダーのように笑顔を絶やさずに笑っている彼がぽろぽろと涙を流していた。
どうして泣いているのかも、どうして悲しかったのかも、狛枝には理解できるはずがなかった。優も名も知らない彼が泣いていることに少し困惑する。

「お前がクラスに馴染めて友達と話したりする姿を見て少し遠く感じて、…けど、幼馴染だから、一番狛枝の事知ってるって思ってた…。」

涙を止めようと手で目をこするが、止まることなく涙がこぼれた。こんなに泣いたのは久しぶりな気がした。
吐き出そうとする空気が喉の奥で詰まる感じがして、出そうとする言葉と詰まった息がぶつかり上手く言葉にできない。
少しずつ息が上がっていった。

「でも、ちょっと、分かってたんだ。いくら昔でも、お前の記憶が少しもないのが。写真だって、一枚もなかった。」

この言葉からして、日向がアルバムを開いて一枚一枚狛枝凪斗という幼馴染を探したのは言うまでもない。
結果的には、幼馴染ではなかったのだ。

「わかんねえよ…ッ、何でこんなこと言ってるのか!ごめん、ごめん…ッ!」

後ろへ体の向きを変えると、思いっきり走り出す。さっきまで歩いてきた七海の家がある方角だ。
追いかけようとは、しなかった。いや、出来なかったの方が正しいのかもしれない。
とにもかくにも足は動かなかった。特に何も喋らない優の様子が気になり、狛枝は後ろを振り返った。

「…ははは。」

笑った後に吸った息をゆっくり吐いた優はとても幸せそうな顔で、

「オレが心配する必要なんて、なかったんだね。」

と、言いながら顔を上げた。







ボクはそのころ小学生で、まだまだ子供だった。
それでも、彼の事が友達以上に好きだったことはなんとなくわかった。その後やっと自覚した。
そして今、日向創という人間を**になっていたことを自覚した。
どうしてだ。彼と日向クンは別人だ。少し似てるだけの別人なのだ。小さい頃だったとはいえ話し方も、性格も、別人だ。
彼と彼を錯覚した。けど、この感情は錯覚だとは思えなかった。
日向クンが彼ではなかったと知った今でも、この**の思いが嘘だったとは思えなかった。
日向クンと過ごした本当に本当に少しの日々が、頭の中をこんがるほど流れた。繊細に、そして美しく。
たった一か月二か月ほどの日々が、輝いて見えた。
今僕が日向クンを**なのは、過去のボクが彼の事が**だったからじゃない。
きっと、

けど駄目だ。
ボクはこの思いに蓋をする。
誰にも見えないように、深く、暗い暗い所に隠してしまおう。
この感情を知られて嫌われるより、友達のように喧嘩して嫌われる方が、よっぽどマシだと思わないかい?



記憶の道を辿ったのは正解か、不正解か。俺には分からない。




    

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ