Short Story

□ふかふか!
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そろり、そろり。
気配も足音も完全に消して、かなり本気モードで少しずつ近づいていく青コート。

彼は人間じゃない。だからこそ、ほんの少しでも油断したら気付かれてしまう。

そろり、そろり。
目の前でゆらゆら揺れる、炎の灯った赤い尻尾。実はこの炎、そんなに熱くなかったりする。

あと少し。
もうちょっと。

よし! いける!

僅かに口角を上げる。
バッ! と勢いよく飛び付いた。

青コートに飛び付かれた赤い獣は、子犬のようなかわいらしい叫び声を上げた。


「なっ、なんだよ いきなり! 心臓止まるかと思ったじゃん!」

ナナキは半べそをかきながら、首元にぎゅっと顔を埋めているルタリスに抗議した。

「へへ、ごめんごめん! 1度こうしてふかふかしてみたかったんだよ」
「それならそう言ってくれればよかったのに! 脅かすことないじゃないか!」
「だからごめんってば!」
「もうルタリスなんかこうしてやる!」
「わわっ、やめてやめて! 髪崩れる!」

途中からナナキも楽しくなったのか、逆にルタリスの顔をペロペロと舐め始める。

バタバタと楽しげに転げ回る2人。
そんなある意味修羅場に中にやってきてしまった不運なふかふかが、もう1つ。

「なんや、楽しそうやな」

デブモーグリに乗った、赤マントの黒猫。

ルタリスとナナキはぴたりと動きを止め、顔を見合わせる。にやり。

嫌な予感。ビクッと耳が動く。
しかし、時すでに遅し。

「突撃〜っ!」
「おーっ!」
「うわぁっ!!」

英雄と獣のダブルタックルには敵うわけがない。
哀れ、ケット・シーもふかふかペロペロ地獄の犠牲となった……



そんな修羅場を少し離れた場所から見ていた男が2人。
酒を飲み交わしているバレットとシド。

「…なんだありゃあ」
「ルタリスのふかふか好きはけっこう有名な話だが…ありゃひでぇな。ガキに戻ってらぁ」
「ああ、ちげぇねぇ」

驚きや呆れを通り越して、すでに微笑ましい。
男2人は何だかんだで楽しげにもつれ合う3人(4人?)を肴に、再び酒をあおった。



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