Short Story

□D.M.W.
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激しい銃声と荒い呼吸音が聞こえる。
銃声はウータイ兵の、呼吸音はザックス自身のものだった。

(どうすっかなぁ……)

雨のように降り注ぐ銃弾から身を守るため、櫓の壁に張り付きながらザックスは思案する。

思っていたよりも敵の数が多かった。これは敵を甘く見ていた自分が悪い。
ここまで力技で何とかしてきたが流石に息も上がって来たし、ずっと力技に頼るわけにもいかない。

じゃあ魔法を使えば? という話だが、ザックスは何となく魔法に苦手意識を抱いていた。

しかしこの状況で方法を選んでなんかいられない。苦手だろうと何だろうと、やるしかない。
そう腹を括った時、ザックスの脳裏にとある記憶がフラッシュバックした。


◇ ◇ ◇


「ほんっとダメダメだなぁ、ザックスは!」

そう言ってけらけらと笑っているのは"茶髪の英雄"ルタリス。ザックスが燃やし損ねて焦げ跡が付いた的を笑いながら眺めている。

「そんなこと言うなよ〜こっちは頑張ってんだよ!」

少しむすっとして反論すると、笑っていたルタリスは突然真面目な顔をしてザックスを見つめた。

「あのね、無駄な力が入り過ぎ。それじゃ魔力が上手く変換されない」

ルタリスはザックスに近付くと、ザックスがついさっきまで使っていたほのおのマテリアを武器から外す。

「肩の力を抜いて、エネルギーの流れを意識しろ。そうすればきっと上手くいく」

ルタリスの手のひらに乗ったマテリアが光を纏い出した。ルタリスはそれを握り締め、的に向かって手を突き出す。すると的は一瞬で炎に包まれ、消し炭となって崩れ落ちた。
ザックスは驚愕する。
あれは本当にさっきまで自分が使っていたマテリアなのだろうか? あまりにも威力が強すぎる。それにルタリスはマテリアをマテリア穴に装着せずに魔法を発動させた。英雄ともなれば、こんな常識外れなこともできるのか。

「簡単だろ?」
「いや、どこがだよ……」

少し呆れたように零すと、ルタリスは笑ってザックスにマテリアを投げて寄越した。
受け取ったマテリアをじっと見つめてみる。至って普通のマテリアだ。でも……少しきらめきが増したような気もする。

「お前ならできるさ」
「ホントか〜?」
「ああ。だって、お前はアンジールが認めた男なんだから」

そう言うとルタリスはふっと柔らかく笑い、ザックスの肩を叩いた。

「俺も期待してるぞ」


◇ ◇ ◇



「エネルギーの流れ……」

ザックスは記憶の中の英雄の言葉を呟く。
状況は変わっていない。未だ銃弾の雨の中だ。しかし、ザックスの心境は少し変わっていた。
ルタリスは自分ならできると言ってくれた。あの茶髪の英雄が、そう言ってくれたのだ。なら、できるに決まっている。
ザックスは武器に装着したマテリアに視線を落とす。あの時のほのおのマテリアだ。そのきらめきを見て、覚悟を決めた。
大きく息を吸って、吐く。
ふっと身体が軽くなったような気がした。

「うぉりゃぁぁぁぁ!!!!」

雄叫びと共に櫓の陰から飛び出す。月夜で薄暗かったが、ザックスの視界はどこまでもクリアだった。
敵の懐に飛び込み、剣を振る。そして敵が怯んだ隙を見逃さず、落ち着いて一歩下り、魔法を叩き込む。
エネルギーの流れ。自分の魔力が炎に変換され、敵へと吸い込まれていくように流れていく。
今なら、ルタリスが言っていたことがわかる気がした。
炎に包まれた敵が倒れる。それを見て、ザックスはまた大きく息を吸う。

「ルタリスーー!! 俺、できたぞーー!!」

砦に反響した声には喜びが溢れていた。
まだまだ未熟ではある魔法。しかし、確かにその軌道は以前よりも力強くなっていた。

(やっぱりルタリスの言う通りだ!)

ザックスはさらなる陽動のために軽やかに駆け出していく。
また、英雄の背中に一歩近付けた気がした。



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