次元の狭間

□Pear Z
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 ◇warning◇
※名前変換はありません。
※時系列のイメージはウータイ後です。
※全員、面識はあります。


***



「あ…」

がやがやと様々な音に彩られた、ちょっと騒がしくも楽しげな空間。ゴールドソーサーのワンダースクェア。
黒髪の少女の小さな気付きの声はそんな音達に掻き消されたように思われた。しかし、彼女の隣を歩く背の高い三つ編みの女性はその声を聞き逃さなかった。

「何かいいものあった?」
「これ、かわいいなって…」

少女が指差す方を見る。
透明な大きな箱の中に置かれた、たくさんのぬいぐるみ達。その中で彼女が興味を示しそうなものは……

「これ? 黄色のチョコボ?」
「はい…」

少女は恥ずかしそうに下を向いてしまった。
デフォルメされた黄色のチョコボ。確かに、可愛い。
…それ以上の意味もあるのだろうけど。

「この位置なら取れるぞ、イリス」
「本当ですか!」

少女―イリスはぱっと笑顔になる。
その花が咲くような笑顔を見て、最近エアリスに似てきた気がするな、と女性―ルタリスは笑った。

1プレイ200ギルのワンダーキャッチャー。ルタリスは宣言通りチョコボのぬいぐるみを取ってみせた。

「ほらね」
「わぁ…! ありがとうございます、ルタ…じゃなくて、エリーゼ、さん」
「ふふ、“お姉ちゃん”でもいいよ?」
「いえ、それはさすがに…」

イリスはぬいぐるみを抱きしめたまま、また恥ずかしそうに下を向いてしまった。ルタリスは彼女の頭をぽんぽんと撫でる。

『ルタリス』は5年前に“死んで”いるため、妙な噂を立てないようにと、人の多い場所では偽名を名乗り、呼ばせている。最も、『エリーゼ』という名もずいぶん世間で騒がれるようになってきたが、もともと多い名だから、大した問題ではないだろう……



「おっしゃあーー! 取れたぁー!!」

突然近くで聞こえた声に驚く2人。きょろきょろと辺りを見渡してみると、それほど離れていない別の機械の前でガッツポーズをしている女性がいた。仕事帰りのような白いワイシャツに、雫型の赤いピアスが揺れる。
ふと、その彼女が振り返った。

「あれっ? ル―むぐッ」
「ナナ、その名は出すな」

素晴らしい瞬発力で女性―ナナの口を塞いだルタリス。その緑の目は本気に近く、ちょっと怖い。
ナナはわかったわかった、というようにルタリスの手を叩く。

「―はぁッ! すみません、えーっと…」
「エリーゼ」
「そう! エリーゼさん!」
「どうしてここにいるんだ? 仕事は?」
「えへへ、実は今、休暇中なんですよ」
「休暇? 本当に? 私達のことを会社に連絡するとか―」
「ないないない! 絶対にないですそんなこと!」

ぶんぶんと頭を振って全力で否定するナナ。そんな彼女を見て、ルタリスは「そうか」と呟きようやく頬を緩めた。
2人の会話を聞いて安心したのか、少し離れた所から様子をうかがっていたイリスもやって来た。

「あ! イリスさんのチョコボかわいー!」
「ル…ううん、エリーゼさんが取ってくれたんです」
「へぇー! ほんとに何でもできちゃうんですね!」
「はい! エリーゼさんは、すごいです」
「…大したことじゃない。
そう言えば、何が取れたって?」

照れ隠しなのか、ルタリスは1つ咳をした。にやり、とナナは笑う。

「ふふふ、驚かないでくださいよ……
じゃーん! ラストエリクサー!」
「わぁ、すごい! これってけっこうすごいものですよね?」
「ああ。全員の体力と精神力を全回復できるなかなかの優れものだな。
で、ナナ。一体いくら使ったんだ?」
「そ、それは…内緒ですよ」
「うん、そうだな……
3000…いや4000ギルくらいで取れたなら―」
「そんなに使ってません!」
「あ、ならよかった」

にっこり、と笑みを浮かべたルタリス。ナナはようやくからかわれていることに気付いた。

「もうっ! からかわないでくださいよ!」
「ふふ、ごめんごめん」
「罰として、ちょっと付き合ってください!」
「罰? 何を?」
「シューティングコースターです!
乗りたいなぁって思ってたんですけど、1人じゃ行きにくくて」

てへ、と笑うナナに呆れてしまう。
深々とため息をついたルタリスのコートを、イリスがそっと引っ張る。

「いいじゃないですか。エリーゼさん、行きましょう? きっと1人でも多い方が楽しいですよ」
「イリスがそう言うなら、仕方ないな」
「お! いいんですか!?
やったぁ、イリスさんナイス〜!!」

ナナは嬉しそうにイリスの手を取った。当のイリスは驚きながらも照れくさそうに笑っていた。

…やれやれ。
本当に仕方のない、手の掛かる子達だ。


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