次元の狭間
□Geranium Z
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◇warning◇
※名前変換はありません。
※時系列はCC前です。
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鋭い掛け声と共に降り下ろされる双刀。それはターゲットの急所を抉り、その命を星へと還した。
「面倒なことになったな…」
顔に付いたモンスターの返り血を拭う双刀の持ち主。茶髪の英雄、ルタリス。彼女はその中性的な顔を後方の2人に向ける。
「2人とも、ナイスフォローだったぞ」
「あ、ありがとうございます!」
少し震える声で返事をしたのは、真っ赤な髪の少年フキ。かの銀髪の英雄セフィロスの愛弟子だ。
彼の隣の神羅兵は無言で軽く会釈をした。
「ったく…いつになったら届くんだ、よっ!」
携帯電話をちらりと見、派手な舌打ちと共に進路を塞ぐ枝を切り捨てる。
今、この3人は鬱蒼と茂る森の中にいた。
事の始まりは十数分前。3人を含む神羅軍A隊は、ウータイ近郊の山道を進んでいた。
今回の任務は敵であるウータイの砦の壊滅。この砦は比較的大きく、この戦争に勝利するためには必ず潰さなければならないと重要視されていた。その証拠に、B隊にはセフィロスがいた。
英雄2人が参加するほど重要な任務。しかし、事故は起きた。
『フキっ!!』
『うわぁっ!?』
『 !? 』
先頭を進んでいたルタリスとフキ、そして近くにいた神羅兵1人を巻き込んで山道が崩落してしまったのだ。道が想像以上に脆かったようだ。
不幸中の幸い、山道がそんなに高くなかったことと、ルタリスが咄嗟に発動した重力魔法のおかげで3人に大きな怪我はなかった。しかし、3人は電波も入らないような森の中に放り込まれてしまったのである。
今は携帯電話の電波が入る場所まで進もうとしているところだった。
ぶつぶつと何か呟きながら道を切り開いていく紺の背を見つつ、フキは神羅兵に話しかけた。
「悪いな、こんなことに巻き込んじゃって」
「いえ、お気になさらないでください」
「…おまえさ、マスク取らねぇの? こんな暗い所じゃ、前見にくくないか?」
「私のことはどうぞお構いなく」
会話が続かない、とフキが内心ため息をついた時。木の根か何かにつまづいたのか、兵士が倒れそうになる。フキは咄嗟に彼女を支えた。
「ほら、言わんこっちゃない! やっぱマスク取れよ」
「…申し訳ありません」
彼女はさっとフキから離れるとマスクを取った。マスクのせいなのか、現れた黒髪は少し乱れていた。
「おまえ、名前は?」
「……ナナと申します」
「うん、ナナか。俺はフキだ」
「存じ上げております」
兵士―ナナはぴしゃりと答えると、すたすたと先に行ってしまった。
「…俺、嫌われてるのかな?」
裏口入社で、しかも英雄2人を含むクラス1st達に世話を焼いてもらっている自分。あまりよく思われてはいないだろうとは思っていたものの、実際にそれを目にすると、やはり堪える。
フキはため息をついた。
**
それは唐突だった。
突然、本当に何の前触れもなく、ルタリスがフキとナナを近くの茂みに押し倒した。
「ルっ!?」
「喋るな。静かに」
ルタリスは自分を呼ぼうとしたフキの口を塞ぐ。ナナはあまりに突然のことに、声を出すことすらできない。
そして、それは来た。
「この辺りにいるはずだが…」
「ああ、必ずいる。あの枝の切り口はまだ新しい」
2人の男の声が信じられないほど近くを通り過ぎていく。フキとナナは、一瞬ルタリスの表情が歪むのを見た。
と次の瞬間、ルタリスは茂みから飛び出し、男達に電撃を放った。男達は力なく倒れた。
「ルタリスさん、これは一体…」
「やられた。うかつだった」
「これは…ウータイ兵…」
ナナがぽつりと呟いた言葉に、ルタリスは頷く。
「そうだ。これは罠だ」