7番目の幻想
□色んな意味で何故?
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3人が足を踏み入れたのは仰々しいネオンがぎらぎら光る、いかにも胡散臭い商店街ウォールマーケットだった。
「最悪だな…」
エアリスが勝手にどこか行かないように、と彼女の腕を掴んだルタリスが呟いた。
「あの車が行くようなところは…この奥にある屋敷しかない」
「何か…詳しいんだな」
「…ここには情報が集まる。だから、たまに情報収集で来てたんだ」
「えっ! そんなの、聞いたことないよ?」
「…話したことがないからな」
「あんた1人で来てたのか?」
「行くぞ」
ルタリスは、無視した。
そしてさっさと歩いて行ってしまう。
残されたクラウドとエアリスは、ぽかんとしたまま顔を見合わせた。
2人がルタリスに追いついた時、彼女は屋敷の前で見張りと思われる男と話していた。
気配を感じたらしいルタリスは男との話を切り上げ、2人のところへ戻ってきた。
「あの子は間違いなくここにいる。ここのドンが嫁探しをしてるらしくて、その候補の1人になってるみたいだ」
「何でそうなってるんだ…」
「どうするの?」
クラウドが頭を抱えているのを尻目に、エアリスが尋ねた。ルタリスは大きく深呼吸をする。
「私が行こう」
「じゃあ、私も…」
「「ダメだ!」」
行く、というエアリスの言葉はルタリスとクラウドの声に遮られた。
「それに…ルタリス、あんたが1人で行くというのも賛成しかねる。あんただって女だろう?」
ルタリスはクラウドの一言にきょとんとした。
「あ、まぁ…一応そうだけど…
でも、どうするんだ? 全員で突撃でもするか?」
「いや、それだと騒ぎになってしまう。俺は男だからな」
「お姉ちゃん、それ、いいと思う」
黙っていたエアリスが言った。その顔にいたずらっぽい笑みを浮かべて。
「クラウド、女の子に変装しなさい。それしかない、うん」
「はぁっ!? なっ、何でそうなるんだ!?」
「いや…なかなか面白いな」
ルタリスはエアリスと妖しげに笑い合う。そして屋敷の見張りの男ににっこりと笑みを向けた。
「お兄さん! 私達、かわいい友達連れてくるから、ちょっと待ってて!」
クラウドは、2度目の衝撃を受けた。
「お、おい、ルタリス…今の声…」
「なに、私だって普通の可愛い女の声くらい出せるさ。
あと、頼みたいことがある」
「な…何だ?」
「“ルタリス”の名を出さないでほしいんだ。一応世間では死んだことになっているからな。今、私のことはエリーゼと呼んでくれ」
「あ…ああ、わかった」
「よし。それで、私、今からキャラ変えるから、それもよろしく」
「…何かもう疲れた」
ルタリスは面白そうに笑い、くすくすと笑っているエアリスと共にクラウドを引きずって商店街へと戻った。
「ねぇ、エアリス。彼…すごく頑張っちゃってるね」
「そうだね。ちょっとびっくり」
そう言って笑うルタリスとエアリス。
ルタリスのキャラは宣言通りすっかり変わっている。そして2人ともすでに着替えもメイクも終えていた。端から見たら美人姉妹にしか見えないだろう。
今は、色々と吹っ切れてしまったらしいクラウド待ちである。
2人は彼の支度が終わるまで、言い寄ってくる男達を上手くあしらいながら花をいい値段で売ることにしたのだった。
「く、クラウド…」
「うわぁ、すごい…!」
「…」
ルタリスとエアリスに驚きの目を向けられたクラウドは俯いてしまった。
「す…すごいよ、クラウド!! うわー、いいもの見た!」
「うん! ほんとにすごいよ! 私達よりかわいいかも!」
「カメラ持ってないよね?」
「やめてくれ!!」
ルタリスの手を押さえてまで全力抵抗したクラウド。身長差のせいで少し上目遣いで睨んでくるその顔は、まさに絶世の美女。
「もったいないなぁ…こんなにかわいいのに」
「もういい! 行くぞ!」
クラウドは完全に開き直ったようだ。1人で屋敷の方へさっさと歩き出す。ルタリスとエアリスは笑いを抑えながら彼を追った。