7番目の幻想
□始まりは再会
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「クラ、ウド…?」
ルタリスは落ちてきた金髪の青年を凝視したまま、ゆっくりと、確かめるように呟いた。
「お姉ちゃん? 彼、知ってるの?」
「知っ…てる…」
エアリスが心配そうに近づいて来る。
多分また記憶が戻る衝撃で倒れてしまうのではないかと心配してくれているのだろう。
大丈夫、とエアリスに微笑み、ルタリスは青年に歩み寄った。
――何だろう…?
――何か…変な感じ…?
「おい、大丈夫か? 私の声が聞こえるか?」
声をかけながら軽くゆすると、青年は意外とあっさり意識を取り戻した。ルタリスはそっと後ろに後退り、さりげなく青年と距離を取る。
「君、大丈夫?」
エアリスも声をかける。
青年がゆっくりと目を開けた。
「…ここは…?」
「ここ、スラムの教会よ」
青年が無事だとわかり、エアリスはひとまず安心したようだ。「いきなり落ちてくるからびっくりしちゃった」と笑う。
青年は起き上がって辺りを見回し、自分がどこに座っているのか気づくと慌てたように立ち上がった。
「これ、あんたの花畑か?」
「ふふっ、大丈夫。気にしないで。お花、強いから」
青年はもう一度周りを見渡す。そして、ルタリスの存在に気づいた。
目が合う。
途端、ルタリスは頭に鈍い痛みが走るのを感じた。思わず顔をしかめて額に手をあてる。
青年が怪訝な表情になったのが見えた。
エアリスが、お姉ちゃん? と心配そうに言ったのが聞こえた。
――やっぱり…おかしい
――私は間違いなく彼を知っている
――でも…なぜ記憶が戻らない…?
ルタリスは困惑していた。いつもなら、自分の過去と関わりがある人の目を見れば記憶が戻るのに。
「なぁ…1つ、聞いていいか?」
「俺にか?」
自分を見つめていた青年に、小さく頷く。
「おまえ…クラウドだよな?」
青年の不自然なまでに明るい青の目が丸くなった。
「俺を知っているのか?」
「ああ。よく…知っていたはずだ」
“よく知っていたはず”という言い方に、青年―クラウドは不思議そうな顔をする。
「今、記憶がなくてね。おまえのことも思い出せないんだ」
「…そうなのか」
クラウドはまだ不思議そうな顔を崩さない。
「失礼だが…あんた、誰だ?」
「私はルタリスだ。信じられないかもしれないけどな」
「ルタリス…!? あ、あのソルジャー・クラス1stのルタリスなのか!?」
「ああ、そうだ」
「何でこんなところにいるんだ?」
「…わからないんだ。5年前、ここで倒れていたところをエアリスに助けられた。わかっているのは、それくらいだな」
そう言いつつエアリスを手で示すと、彼女はクラウドにぺこりとおじぎをした。
「私、エアリス。昨日、お花買ってくれてありがとね」
「ああ…どこかで見たと思ったら、昨日の花売りか」
「あ、ちょっとひどいなぁ!」
その言葉とは裏腹に、エアリスはくすくすと笑う。
クラウドも苦笑を浮かべながら頭を掻いた。
「ねぇ、もっとお話できないかな? 時間、ある?」
「ああ、大丈夫だ。俺も、あんた達に聞きたいことがたくさんある」
「ほんと? じゃあ、ちょっと待ってて。お花の手入れ、すぐ終わるから」
「いや、待て」
エアリスが花畑にしゃがみこんだその時、ルタリスが声をかけた。
エアリスは不思議そうにルタリスを見上げる。
「お姉ちゃん?」
「来るぞ」
ルタリスはそう言うと教会の扉へ目を向ける。
ほぼ同時に、その扉が開く重い音が響いた。