7番目の幻想

□つかの間の休息
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「あの…ルタリスさん…」

ルタリスとネーゲルの2人だけが残された資料室。ネーゲルがルタリスにおずおずと声をかけた。

「…何だ?」
「あ…握手してもらってもいいですか!? 僕、ルタリスさんのファンなんです!!」

ルタリスは彼の言葉に一瞬きょとんとしたが、すぐに笑みを浮かべる。

「なんだ、そんなことか」


自分に記憶がなくても、自分が英雄と呼ばれていることに変わりはない。今まではただ声をかけられなかっただけであり、ファンがいることは全くおかしなことではないのだ。

そのまま手を差し出すと、ネーゲルはおそるおそるルタリスの手を握った。

「うわぁ…もう、感激です! 本当にありがとうございます!!」

彼は茶色の瞳をきらきらと輝かせて、満面の笑みを浮かべた。
こんな素直な子があの宝条の助手だなんて信じられない。どこからどう見ても普通の子どもである。
それはともかく、ただ握手をしただけでこんなに嬉しそうな顔をされると、こちらまでほんわかしてしまう。
ネーゲルは可愛い子だ、とルタリスは思った。

「ルタリスさん、博士も言ってましたけど、今日はゆっくり休んでください」
「ああ…そうだな」

ルタリスは自分を気遣うように言ったネーゲルに小さく頷く。


確かに、今日は恐ろしく目まぐるしい1日だった。
全ての始まりは、クラウドが教会に落ちてきたこと。そして自分とエアリスの捕獲のためにやってきた神羅関係者を追い払って、家に帰った。その後クラウドを七番街にまで送りに行ったら、ティファを追いかけてウォールマーケットに行くことになり、そこで何やかんや色々あって下水道に落とされる。下水道と列車墓場を抜け、七番街プレートを支える柱に到着したらそれの爆破阻止のために上へ行ったものの、手遅れ。エアリスを追ってヘリに飛び乗った直後、七番街プレートは落下。数え切れないほどの犠牲者が出たことだろう。クラウド達の安否も不明だ。そしてヘリで神羅ビルへやって来て、宝条とネーゲルに会い、今に至る。
この間、記憶が戻りそうとかで調子が悪くなった回数はなんと6回。しかも耐えきれずに倒れてしまった回数は3回。
ほんの半日足らずでこれが全て起きたのだ。さすがに疲れる。

ルタリスはソファーに仰向けに寝転がった。

「寝ようかな」
「そこで、ですか? 仮眠用のベッドがありますよ」
「いや、いい。昔よくここで居眠りしてたんだ」

そっと寝返りを打ち、ネーゲルに背を向ける。

「そのベッド、おまえが使ったらどうだ? まさか一晩中起きてて私を監視してるわけでもないだろう?」
「え、でも…」
「なに、私は逃げやしないよ。1人で逃げたって意味がないからな」

ルタリスはそう言うと、目を閉じた。
今一番気になるのは、エアリスのことだ。もちろんクラウド達のことも心配だが、彼らはきっと無事である。昔から勘は恐ろしいほど鋭い方だ。当たる自信は十分にある。
どちらにせよ、この疲れきった状態で動くのは賢明な判断とはいえないし、今すぐ動いたとしても何も状況は変わらないだろう。

数分と経たないうちにうとうとし始めてしまった。眠りに落ちる直前、ルタリスはふわりと柔らかいものがかけられたのを感じた。おやすみなさい、という小さな声を聞き、ネーゲルは本当に良い子だ、と思った。

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