7番目の幻想

□急展開
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「ルタリス、皆に失礼のないようにな」
「わかってるよ」

ルタリスは今、目隠しをされた状態で宝条に手を引かれていた。おそらく、昼間リーブが言っていた会議に連れていかれるのだろう。宝条は一応科学部門の統括だから、重役会議には顔を出さなければいけないだろうし、少なくとも“古代種”の検査結果も報告しなければならないのだろう。
ルタリスは昼間のことを思い返す。



リーブの休憩中はクラウンを含めた4人(?)で話していた。その時、誰も自分の過去に関わるような話をしなかったのは、自分に気を使ってくれたからだろう。本当にありがたかった。

リーブが仕事へ戻った後は、ネーゲルに頼み込んで宝条から許可を貰い、エアリスに会わせてもらった。幸い、エアリスはまだ特に何もされていないようで、本当に安心した。
「お姉ちゃん!」と抱きついてきたエアリス。彼女にクラウンを紹介したら、とても嬉しそうに笑ってくれた。クラウンも思いきり照れていたくらいである。
そんなエアリスがとても愛おしくて、必ず守ってやらないといけないと思った。何かあったら自分を呼べ、必ず何か感じるだろうからと伝え、部屋に戻った。

そしてネーゲルとクラウンと共に世間話をしていたら宝条がやって来て、自分にまた目隠しをして部屋から連れ出したのだ。


もし重役会議に連れていかれるとなれば、そこには確実に神羅のお偉いさんがいる。となると、また記憶が多少は戻るかもしれない。
一瞬自分にぞっこんな彼のことが頭に浮かんだが、すぐにそれを打ち消した。彼がいることはまずない。彼はまたどこかに出張中のはずだ。


宝条が足を止めた。目的の場所へ着いたらしい。重い扉が開く音がした。

「ルタリス、少しここで待っていろ。すぐに呼ぶ」

宝条はそれだけ言うと、さっさと部屋に入ってしまった。1人残されたルタリスは、ふーっと大きなため息をついた。



すぐに呼ぶという宝条の言葉に嘘はなかった。宝条が部屋に入って数分もしないうちに、その部屋へと招き入れられた。

目隠しが取られる。ルタリスはそっと目を開けた。
その場にいる―自分と宝条を除く―5人が、じっと自分を見つめていた。1人はリーブだからいいとして、あとの4人。その1人1人とゆっくり目を合わせていった。鈍い頭痛を感じ、少しずつこのお偉いさん方のことを思い出していく。
治安維持部門統括ハイデッカー、宇宙開発部門統括パルマー、兵器開発部門統括スカーレット、そして神羅カンパニー社長のプレジデント神羅。
思い出した重要そうなことは、ほぼそれだけだった。あとはどうでもいいことばかり。
社長を見てもほとんど思い出すことがないとは。自分の忠誠心のなさに笑えてきた。

「お久しぶりです、皆様」

もともと忠誠心がなかったのなら今さら取り繕うこともない。皮肉を込めて言ってやった。プレジデントと目が合う。

「ルタリス、早速だが本題に入る。おまえをここへ呼んだのは…」
「その必要はありません」

社長の言葉を遮るとは無礼にも程があるな、と自分でも思った。彼の言いたいことはわかる。というか知っている。

「お言葉ですが、私は今さら神羅に戻る気はありません。戻ったとしても何ができるでしょうか? 私は5年前にすでに“死んで”いる。私が再び現れれば、間違いなく噂が立つでしょう。たとえ身元を隠したとしてもです。そんな窮屈な場所、私は嫌です」
「神羅と完全に縁を切るということか?」
「ええ。すでに切れたも同然でしょう? 居場所がわかっているのに5年も放置しておいて」

くるりとプレジデントに背を向け、扉へと向かう。
腹立たしい。どうせ呼び戻すならすぐに呼び戻せばよかったものを。

「私の息子とも縁が切れるぞ?」

プレジデントが発した言葉に、足を止めた。
そして、思わず爆笑してしまった。この場にいる全員が驚いたことだろう。
ルタリスは笑いすぎて浮かんできた涙を拭う。

「あいつと縁が切れるだって? 切れるものなら切ってほしいくらいだ」

そう言い残して、さっさと部屋を出る。では失礼する、と言って宝条が追いかけてくる音が聞こえた。

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