7番目の幻想

□変わらないもの
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ロケットは思っていたよりもキレイだった。打ち上げに失敗して放置されてもなお、いつでも飛べるように整備する村人達。彼らの宇宙への変わらぬ想いがひしひしと感じられる。

ルタリス達4人はロケットへやって来ていた。あの女性の言っていたことは正しかった。艇長は中にいますよ、とロケット外壁の整備をしていた村人が教えてくれたのだ。
ルタリスは正直、少し緊張していた。


――また1つ、失われた記憶が戻るんだ……




艇長とはすぐに会えた。少し意外な形で。
ロケットの中に入ろうとしたら、突然彼が飛び出してきたのだ。先頭にいたルタリスとは、当然正面衝突。油断した。
しかも一瞬彼と目が合ったため、例の頭痛も感じていたのだ。何という再会の仕方だろう。


「いってー…悪ィな、嬢ちゃん」

額がひりひりするものの、ルタリスは込み上げる笑いを抑えられなかった。思い出した。懐かしい。本当に何も変わっていない。
今、自分を端から見たら、頭をぶつけておかしくなったと思われても仕方がないだろう。
案の定、彼―シドが少しおどおどしているのを見て、さらに笑えてきた。

「相変わらず落ち着かないヤツだなぁ、シド?」

くく、と笑いつつ皮肉っぽく言ってやる。

「お、俺にこんなべっぴんの知り合いがいた覚えはねぇが……?」

シドは何かに気づいたようにルタリスに近づいた。そしてぐっと目を覗き込む。
ルタリスも一切目を逸らさずに彼を見つめていた。口元に確信の笑みを浮かべて。

「お、おまえ…まさかルタリスか!?」
「そうさ。やっと思い出したか」

シドの表情が驚きから喜びへと変わっていく。そのわかりやすさ、少年っぽさに思わずルタリスの頬も緩んでしまう。

「だよなぁ! オレ様と背が同じの、茶髪で緑のネコ目の女っつったらルタリスしかいねぇもんな!」
「細かいなオイ」
「そんだけ会えて嬉しいってことだ! いやぁ、ほんとに死んだと思ってたぜ」
「もう! 勝手に殺すなよ!」

2人は顔を見合わせると、声をあげて笑い始めた。
エアリスとクラウドは完全に置いてきぼりである。クラウンに至っては、バッグに引っ込んで姿すら見せていない。

「…びっくり。お姉ちゃん、昔に戻ってる」
「ああ…驚いた」


ルタリスがこの呆然としている2人に気づいたのは、ひとしきり笑った後である。彼女は心底申し訳なさそうに謝った。

「…で、2人とも、紹介するよ。こいつがシド・ハイウインド。このロケットのパイロットだ。私の悪友でもある」
「“私”だと? おめーこの5年間でだいぶ女々しくなったんだな」
「おい、口を挟むな。まぁ色々あったんだよ。あとで詳しく話す」

目の前で繰り広げられる会話にやはり呆然としながらも、エアリスが動いた。

「はじめまして、シドさん! 私、エアリス。ルタリスの、義理の妹です」
「…義理?」
「私は彼女の家に居候させてもらってるんだ。で、こっちが…」
「元ソルジャーのクラウドだ」

しびれを切らしてしまったのか、クラウドはルタリスの言葉を遮った。
それも仕方ないだろう。ここに来た目的はすでに1つ果たされているのだから、早くもう1つも果たしたいと思っているに決まっている。

「単刀直入に言うが、あんたの家に小型飛行機があるだろう? あれを貸してもらいたいんだ」
「あ、私からも、お願いします」

クラウドが尋ね、エアリスがぺこりと頭を下げる。シドが少し戸惑っているように見えたため、ルタリスは助け船を出した。

「2人は私の仲間なんだ。おまえの家にもまだ何人もいるけどな。今、世界中を旅して回ってるんだけど、さすがに徒歩だとつらくてさ。だから、タイニー・ブロンコ、貸してくれ!」

この通り! と手を合わせて頼み込むと、シドは少し悩んだ後、大きく頷いた。

「悪友の頼みじゃ断れねぇな。よし、貸してやる!」
「やった、さすが話わっかるー!」
「ったりめぇよ!
んじゃ、コイツの整備が終わったら動かし方教えてやるからよ、俺ん家にいてくれ」
「あ、私残ってもいい? 今詳しい話するよ」
「おう、別に構わないぜ」

ルタリスは小さく頷くと、エアリスとクラウドに先に戻っててくれ、と微笑んだ。その表情はいつもの見慣れたルタリスで、2人は何だか非常に目が回る思いがしたのだった。

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