7番目の幻想

□一難去って…
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パチッとたき火の火がはぜ、夜の冷たい空気に火の粉が溶けていく。
ルタリスは崩れたたき火をもう一度積み直すと、眠っている皆を起こさないようにそっとその場を離れた。火さえ絶やさなければ大抵の生物は警戒して寄ってこないから、多少離れても問題はない。


タイニー・ブロンコが海に不時着した後、一行はなんとかユフィの言っていた西の陸にたどり着くことができた。しかし、すでに辺りが完全に暗くなってしまっていて、なおかつ皆の疲れもピークに達していたため、仕方なく野宿をすることにしたのだ。
ルタリスは誰に言われたでもなく、自ら火の守り役を務めている。みんな相当疲れているみたいだから、できるだけ安心してゆっくり休んでもらいたい。


陸付けされたタイニー・ブロンコの翼の上に寝転ぶ。空気がしんと冷たく澄んでいるからだろう、月が強い光を放っているのにも関わらず星が綺麗に瞬いているのが見えた。
こんなにじっくりと星を眺めたのはいつ以来だろうか。


「ルタリス」

名前を呼ばれ振り返ると、視界に飛び込む鮮やかな赤。

「あ、ヴィンセント。どうかした?」
「いや……おまえは眠らなくていいのか?」
「私は大丈夫だよ」

起き上がって翼に座り直すと、彼もルタリスの隣に座った。

「何か聞きたいことでもあるの?」
「ああ…。村で話を聞いて思ったのだが……
おまえと現在の神羅カンパニーの社長はどういう関係なんだ?」
「ああ…そういえばまだ話してなかったっけね」

ルタリスはまだヴィンセントに新社長ルーファウスのことを何も話していなかったことを思い出し、少し苦い顔をした。

「…今の社長は、プレジデント神羅の息子でね。つい先日、社長になったばっかりなんだ。
でね…実は、私と婚約してる」
「婚約、だと?」

ルタリスは頷くと、左手のグローブを外した。月の光を受けて薬指の指輪がきらりと光る。

「承諾したのはいいんだけど、私はまだみんなと一緒に旅を続けたい。だから、ルーファウスには無理言って自由にさせてもらってるんだよ。次に会ったら絶対に連れ戻すって条件付きでさ…」
「だから焦っていたのか」
「…そういうこと」

空を見上げる。本当に星も月も綺麗な夜だ。

「本当のこと言うとね…あいつに申し訳なくて。約束…破っちゃったから」
「約束?」
「……社長になったら、ダメもとでプロポーズする。たとえ他の誰かと結婚してようが何だろうが、言うだけ言わせてもらう。そう約束してた。
その当時、確か私は年下の戯れだと思ってたんだけど、全然違った。ルーファウスは本気だった。
何でだろうね。あいつが私を想う気持ちは揺るがないって、わかってたはずなのに…」
「…自分がそれで良いと思うことができれば、いいのではないか?」
「…そうかもしれないね。でも、あいつはこの10年近く前の約束を守ってくれた。私はほんの数日前にした約束を破った。罪悪感感じるなっていう方が無理だよ」

ルタリスは口を閉ざす。
波が打ち寄せる音、風が木々を揺らす音、パチパチと燃えるたき火の音。

「ルタリス。おまえはどうしたい?」
「私? そうだなぁ…」

再び、騒がしい沈黙。

と、突然ルタリスが立ち上がる。

「よし、決めたっ!
次ルーファウスに会ったら、私は潔く戻る! もう、モヤモヤするのは嫌だ! セフィロスを追うっていう本来の目的は、ルーファウスのとこでも果たせるし」

彼女はぴょんとタイニー・ブロンコから飛び降りる。1人分軽くなった機体が波に揺れた。

「ありがとう、ヴィンセント。なんかすっきりした!」

笑顔でそう言うと、眠る仲間達のもとへ戻っていった。

残されたヴィンセントは夜空を見上げた。
月が、綺麗だった。

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