7番目の幻想

□願い、そして不穏
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ゴーストホテルのゲートから飛び出してきたのは、楽しげな女性2人と、いまいちこの状況を掴めていなさそうな男性2人。
いうまでもなく、ルタリスとエアリス、ヴィンセントとクラウドの4人である。


「ね、イベントスクェアでショーが始まるって! 行ってみよ!」
「もちろん! さ、エアリス、クラウド、お先にどうぞ」

エアリスとはしゃいでいたルタリスがおどけて恭しくイベントスクェアのゲートを示した。エアリスは嬉しそうに頷くと、「クラウド、行こ!」と強引にクラウドを引っ張っていった。
ルタリスはくすくすと笑うと、棒立ちになっているヴィンセントの顔を覗き込む。

「ヴィンセント、ちょーっと付き合ってね?」
「……ああ」

少し目を逸らされてしまった。
でも、これでいい。…思った通り。

ルタリスはヴィンセントの腕を取ってゲートに飛び込んだ。



「あ、お姉ちゃん! すごいの! 私とクラウド、今から劇やることになっちゃった!」
「劇?」
「うん!」

見るからにわくわく、といったエアリスとは対照的に、クラウドは今にも頭を抱えて座り込みそうな顔をしていた。なんでも『本日100組目のカップル』とやらになってしまったらしい。

「観てみたいけど、おまえの“彼”が発狂しそうだから私達は先に行ってるよ。後で感想、聞かせてくれ」

先に話つけてくる、と耳元で囁けば、エアリスはふと神妙な顔になって頷いた。

「じゃ、頑張ってね、お二人さん!」

スタッフに誘導されていく2人に手を振ると、エアリスからは笑顔が、クラウドからはうんざり顔が送られてきた。



インフォメーションボードがあるゴールドゲートへ戻ってきた年長2人。
ルタリスはヴィンセントを少し見上げる。

「ヴィンセント。2人だけで話せる所、行こっか。
聞きたいこと…あるんだ」

そっと微笑むと、わずかに目を逸らされた。やはり、戸惑いがちに。


――わかってるけど、やっぱりひどい
――いっつも私のこと見てるくせに……


ルタリスは少し複雑な想いを抱きながら、再び彼の腕を取って、ゲートに飛び込んだ。


**


ごとごと。
木造の暖かみのあるゴンドラがゆっくり上昇していく。窓から見える様々なアトラクションは、色とりどりの花火に照らされて一層楽しげに見えた。
しかし、その光景は2人の目には映っていない。


「…あのさ」

ルタリスが花火に消されてしまいそうなほど小さな声で切り出す。

「私ってさ、そんなに母さんに似てる? あなたの私を見る目、いつも私を通して誰か別の人を見てる」

さっきから、見知らぬ母を意識して彼に接してみた。案の定、彼は目を逸らした。
その時、ふと戸惑いと共に深い悲しみも垣間見えた気がした……

「単刀直入に言うけどさ……
ヴィンセント、あなた、母さんの…ルクレツィアのこと、好きなんでしょ」

沈黙。しかし、それはきっと肯定。
ルタリスも口を閉ざし、人々の歓声と花火の音が静かなゴンドラに響く。


「……ねぇ、本当に母さんがどこに行ったのか知らないの?」
「……ああ」

再び、沈黙。

2人の視線は、決して交わらない。
外を見つめる彼の白い頬は、花火の様々な色に染まる。

突然、ルタリスがぐっと身を乗り出す。

「じゃあさ、探しに行こうよ。2人でさ」
「…2人で?」
「うん。全部終わったら、2人で。
私の中にはね、間違いなく母さんの想いがあるんだ。なぜかはわからないけど…。
でも、この想いを辿っていけば、母さんのいる所に行けると思うんだ」

胸に手を当てて、ペンダントを握りしめる。
トクトク、といつもより強く鼓動が感じられる。

これが……
これが、母の想い…。


「……私にルクレツィアに会う資格などない」
「そっ…そんなことないっ! 母さんはヴィンセントに会いたがってる!!」

彼女は大きくかぶりを振り、彼の手を両手でぎゅっと包み込んだ。

少し冷たい彼の手。
なぜだろう、こんなにも悲しく感じるのは……

「私も母さんに会いたい。2人で会いに行こうよ。頼む、お願い…」

俯いた彼女の表情は、長い前髪に隠れて見えない。微かに震える肩は、彼女の母の想いゆえか、それとも彼女自身の想いゆえか。
どちらにせよ、彼の心を掻き乱し、新たな決意をさせるには十分すぎた。

「……わかった」

ため息と共に、彼は花火に消されてしまいそうなほど小さな声で囁き、彼女をそっと抱き寄せた。
人々の歓声と花火の音が静かなゴンドラに響いていた。




(私…ひどいこと聞いた。ごめん…)
(謝るな。おまえは…ルタリスは正しい)
(…ごめんね)

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