7番目の幻想

□深い繋がり
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翌日。一行は、ケット・シーの案内で古代種の神殿を目指していた。

皮肉なほどに晴れ上がった真っ青な空。その空を隠す、一年中緑の葉を落とさない森。そして、いつもよりずっと口数が少ない仲間達。
不安。不吉。マイナスの言葉しか浮かんでこない。
ルタリスは根拠のないそんな思いに、わずかに体を震わせた。


***


道なき道を進んでいくと、それは唐突に現れた。

「ここ…古代種の神殿…私、わかる」

エアリスが巨大な建物を見上げ、呟く。三角形のこの建物は、きっと誰が見ても神秘的だと思えるに違いない。

ふと、辺りを見渡していたルタリスが何かを見つけ、硬直した。

「黒マント…」
「お、おい! ルタリス!」

クラウドの制止も聞かず、ルタリスは吊り橋の脇の繁みに倒れていた黒マントに近づいた。

わずかに息があること、左の手の甲に『9』のイレズミがあることを確認した、その時。
突然、黒マントに信じられないほど強い力で襟元を掴まれ、地面に引きずり倒されてしまった。

黒マテリア、と苦しそうに耳元で呟かれた瞬間、仲間達の叫ぶ声が急激に遠ざかり、代わりに無数のノイズが頭に飛び込んできた。

風のような“星の声”とは、全く違う。
ざらざらと、不快なノイズそのもの。

無数のノイズの1つが、確かな音となって、響いた。

ルタリスは弾かれたように立ち上がり、脇目も振らずに神殿へ続く吊り橋を駆け出した。
仲間達はあまりにも突然のことに呆然となりながらも、ルタリスを追って駆け出した。
黒マントが消えていることに気づく者はいなかった。


***


どうか。お願い。
ルタリスはその2つの言葉を口の中で呟きながら、階段をかけ上がった。

どうか、間違いであって。
お願い、嘘だと言って。

そう願わずにはいられない。たとえ、それが変わりようのない事実だとわかっていても……


「ツォン…っ!!」

ルタリスの目に飛び込んできたのは、祭壇のようなものに力なく寄り掛かっている親友の姿。すぐさま彼に駆け寄り、傷の状態を見た。

左肩から右脇腹にかけての、深い創傷。
でも…でも、大丈夫。彼は生きている。

皆も来たのだろう。誰かが息を飲む音が聞こえた。

「ルタリス…? これは…夢、なのか…?」
「ばか、夢じゃない。私はおまえの目の前にいる。
…ちょっと、借りるよ」

ルタリスはツォンのスーツの内ポケットに手を入れ、緑色のマテリアを取り出した。使い込まれた、フルケアのマテリアだ。
それを握ったまま、彼の傷をそっとなぞる。淡い緑の光が傷を覆うのとツォンが苦しげにうめいたのはほぼ同時だった。ルタリスは彼の血に濡れた手を強く握る。

ぱたぱたと2人に駆け寄る音。エアリスだ。
エアリスは彼らの握られた手にそっと自分の手を重ねた。

「2人とも、大丈夫だから。ね? 大丈夫」

2つ目の大丈夫は、重傷のツォンではなくルタリスに向けられていた。
エアリスの真剣なまなざしが突き刺さる。ツォンも苦痛に表情を歪めながらも力強く頷いた。

「ああ…大丈夫だルタリス。俺は……
俺は、死なない」

ルタリスはようやく気付いた。自分の体が小さく震えていることに。

――私…怖いの?

そんな自分自身に戸惑い、視線を下に落とした時、ペンダントが視界に入った。
ふわりと揺れる、白と黒の4枚の羽根。

ルタリスはそれを少し見つめた後、強く握りしめた。そして仲間達の方を振り返り、叫ぶ。

「ケット・シー! 会社に連絡!」
「もうやってまっせ!」
「よし……
おまえ達は行ってくれ。私はここに残る。
エアリス、キーストーンを」

エアリスはこくりと頷き、傍らに落ちていたキーストーンを手に取った。
ルタリスはツォンと目を合わせ、頷き合う。彼の背中に腕を回し、そっと立ち上がらせた。

「エアリス…それを、祭壇に置いてみろ」

ツォンの言葉にエアリスは黙って頷き、目元を押さえて立ち上がった。

「お姉ちゃん…お願いね」
「ああ。任せとけ」
「エアリス…俺は大丈夫だ。ルタリスがいる」
「うん。わかってる」

エアリスは小さく微笑むと、祭壇にキーストーンを置いた。
皆が祭壇の前に集まった時、ケット・シーが思い出したように振り返った。

「ルタリスさん、ちょっと待っとってください。じきにボクの知り合いが来るんで」
「わかった。感謝する。あと、気をつけろ。
中に、いる」

仲間達はわかっている、というように頷く。それを待っていたかのように、彼らの姿は光に包まれ、消えた。

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