15番目の幻想

□first meeting―Nyx
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「何、ステラと連絡が取れない?」
「はい…電話をかけても繋がらなくて…」
何かあったんじゃないでしょうか、と呟いたイグニスの顔はすっかり青ざめていた。
ラディウスはポケットからスマホを取り出すと、ステラに電話をかけてみた。
確かに、出ない。
普段ならワンコールで出るのに、おかしい。
「イグニス、来い。マーラのところに行くぞ」
ラディウスはスマホの画面を閉じると、イグニスを連れて部屋を出た。



「…ステラと連絡が取れない?」
「ああ、電話をかけても繋がらないんだ」
「それは…おかしいわね」
「だろ?ちょっと探してみてくれないか?」
「ええ…そうね」
マーラは頷くと胸の前で手を組み、そっと目を閉じた。
「ステラは…大丈夫でしょうか…」
「ああ、きっと大丈夫だ。マーラなら絶対にステラを見つけられる。同じ言詠み同士なんだからな」
ラディウスはイグニスの頭をぽんぽんと叩く。
一瞬彼が少し顔をしかめるのを見て、ラディウスは苦笑した。
イグニスは子ども扱いされることを嫌う。


数分後、マーラが2人を振り返った。
「見つけたわ」
「本当か!?」
「本当ですか!?」
同じ反応をした2人に、マーラは流石は親子、と小さく笑みを浮かべる。
「ええ。ここは移民街ね」
「移民街?また何でそんなところに…」
「おそらく…誘拐よ。ステラがたった1人でそんなところにまで行くとは思えないわ」
「誘拐…」
マーラとラディウスの会話を聞き、イグニスは不安げに2人を見上げた。
移民街は治安がいいとは決して言い切れない。
もしかしたら、ステラの身に何か危害が及ぶかもしれない。
そんな彼の視線に気づき、マーラは微笑んだ。
「大丈夫よ、イグニス。移民街には知り合いがいるわ」
マーラはちらりとカレンダーに目をやると、誰かに電話をかけ始めた。
ちょっとごめんなさいね、と言って2人から離れる。
「マーラさんには移民の知り合いがいるんですか?」
「ああ。確か王の剣の者だったな」
イグニスは父の言葉を聞くと、多少納得した表情になった。
レギス陛下の私兵なら、王の言詠みであるマーラにも接する機会はそれなりにある。
「彼、手伝ってくれるそうよ」
マーラはスマホを下ろして言った。
「そうか、よかった…じゃあその彼によろしく頼むと伝えてくれ」
「ええ、わかったわ」
マーラは再びスマホを耳にあてた。





「…王子の言詠みが誘拐された?」
『ええ。ちょうどあなたの家の近くにいるの。だから、ニックス…少し力を貸してくれない?』
ニックスは少し眉をひそめた。
ステラ・スキエンティア。
もしノクティス王子の言詠みである彼女に何かあったら、最悪国にも関わりかねない。
「別に構いませんよ」
「よかった。ちょっと待ってね」
マーラがスマホを耳から離したのがわかった。
彼女が再び戻ったところで、ふと疑問に思った全然関係のないことを聞いてみる。
「ところで、何でオレの非番の日を知ってるんだ?」
『あら、私、何人かのシフトは把握しているのよ?知らなかった?』
「…それじゃあまるでストーカーじゃないか」
『人聞きの悪いことを言わないで。私はただあなた達が心配なだけなのよ。特にあなた』
「…気持ちはありがたいけど、オレも他のやつらもいつまでも子どもじゃないんだぜ?」
『私からすれば、あなた達はいつまでも子どもみたいなものよ』
ニックスは、少し呆れた。
確かに、家族を失くし、インソムニアに来たばかりの頃はマーラに世話になった。
今も何かと気にかけてもらっている。
が、最近少し過保護すぎるのではないかと思うようになった。
大きくため息をつくと、マーラが苦笑したのがわかった。
『さっき、ステラの父親がよろしく頼むって言ってたわよ』
「…了解です。で、オレはどこに行けばいいんですか、“母さん”?」
皮肉を込めて言ってやると、再びマーラは苦笑した。
『そうね、じゃあ今から私が言うところに行ってちょうだい。頼んだわよ、ニックス』

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