15番目の幻想

□first meeting―Nyx
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ステラのもとへ向かう途中、ニックスはマーラから接し方を注意される。
『いい?ステラは絶対にあなたから逃げようとするわ。だから、すぐに王の剣の者だって名乗って、そして私の名前を出して』
「王の剣だって言っていいのか?」
『ええ。ステラはね、なぜかドラットー将軍になついているのよ。だからあなたが王の剣だってわかれば、多少安心すると思うの』
「…そうか」
『あ、その路地を曲がって。そこにステラがいるわ』
言詠みの力とはすごいもので、マーラからは今ステラがどこにいるのか、そしてニックスがどこを歩いているのかがはっきりと見えているという。
路地を進んで行くと、確かにそこには膝を抱えてうずくまる少女がいた。
ニックスが少女に近づこうとした時、その少女がぱっと顔を上げた。
まともに視線がぶつかる。
マーラと同じ紫の瞳には、ありありと恐怖が浮かんでいた。
駆け出そうとする少女に、ニックスは慌てた。
「ま、待て!オレは王の剣の者だ!マーラに頼まれておまえを探してたんだ!」
少女はぴたりと動きを止めて、おそるおそるニックスを振り返った。
「マーラ?…王の、剣?」
「ああ、そうだ」
一瞬、目が合う。
が、すぐに逸らされてしまった。
「故郷の…?」
俯いた少女が戸惑いながら口にしたのは、なぜかドラットー将軍の口癖だった。
「…誇りに?」
ニックスも若干戸惑いつつ、こういうことだろうかとその続きを口にすると、少女の目からほろりと涙がこぼれ落ちた。
緊張の糸が切れたのか、少女はそのままニックスに駆け寄り、抱きついた。
突然の出来事にニックスは驚いたが、そっと少女を抱きしめて、その小さな背中をさする。
「ステラだよな?」
少女は何度も頷く。
「怖かったろ…もう大丈夫だからな」
自分に抱きついた少女―ステラの腕の力が強くなるのを感じ、ニックスは彼女の頭を撫でるとスマホを耳にあてた。
「無事、ステラを見つけました」
『そのようね。よかった…』
スマホ越しでもマーラが安堵したのがわかった。
『ステラと代わってくれる?』
「ああ、ちょっと待ってくれ」
ニックスは多少落ち着いたらしいステラに声をかける。
「マーラが代わってくれって言ってるんだが、話せるか?」
ステラは頷くと、差し出されたスマホを受け取った。
体勢が体勢だから、2人の会話を聞くことができた。
「もしもし…マーラ?」
『ステラね。無事で、よかったわ』
「マーラ…迷惑かけて、ごめんなさい…」
『いいのよ、あなたのせいじゃないんだから』
一瞬間が空いたが、すぐにマーラが続ける。
『イグニスに代わるわよ』
「兄さんに…?」
『もしもし?』
ステラは聞こえてきた少年の声に息を飲んだ。
「兄さんっ…!」
『ステラ…!無事なんだな!?』
「うんっ…」
『何で誘拐なんてされたんだよ!心配したじゃないか!』
「ごめんなさ、い…」
『でも…本当によかった…』
「…兄さん?もしかして、泣いてる…?」
『誰のせいだよ…』
「間違いなく…私、です…」
結局2人とも安堵から黙りこんでしまい、スマホは互いに持ち主のもとへ戻った。
『今から2人…ステラの父と兄を迎えに行かせるわ。あなたの家で待っててくれる?』
「え、オレの家?」
『ええ。不都合かしら?』
「いや、別に問題はないが…」
『そう?ならお願いね』
「…了解、です」
ニックスはずいぶん強引だな、とため息をついて電話を切った。
「ステラ、今からおまえの家族が迎えに来てくれるから、一旦オレの家に行くぞ」
ステラは頷いたものの、泣き疲れてしまったのか、その動きは鈍い。
寝ちまってもいいぞ、とニックスはステラに笑いかけ、彼女を抱き上げた。

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