ニョルド

□愛をこめて花束を
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「…。」

ピンクのガーベラの花束を抱え、僕はチャニョルの作業室の前に立っていた。

そう、今日はチャニョルの誕生日。

僕は柄にも無く思い立って花束なんてプレゼントしようとしたのだ。

けど、あいつと練習生として初めて出会ってから今まで、花束なんて贈ったことも無いから、いざ作業室の前まで来て恥ずかしくなってきたのだ。

いったい、どうやってチャニョルに渡したらいいんだろうか…。

撮影で貰ったからついでにチャニョルにあげる…いや、それじゃ単なるお裾分けでついでになってしまうから却下。

たまたま見つけて綺麗だったから買ってきた…いや、花屋にたまたま通りかかるなんて、この忙しいのにそんなことあるはずがないから却下。

いや、やっぱり真っ向から渡すべきか…。

こんな時はどうしたらいいものかと、自分のいつもの天邪鬼とポーカーフェイスが恨めしくなった。

「ギョンス?」

「あっ、えっ?チャニョル?」

部屋の中に居るはずのチャニョルに、なぜか背後から話しかけられた僕は、思わず花束を床に落としてしまった。

「何それ?」

「あっ、それはっ…。」

慌てて隠そうとした花束を、チャニョルはひょいと拾い上げた。

「わぁ…綺麗…。もしかして、俺の為に?」

そう言ってガーベラの香りを吸い込むチャニョルの顔はとても幸せそうで、直接渡すのを恥ずかしがって悩んでいたことが、急にバカらしくなってきた。

それでも照れくさい僕がこくりと頷くと、チャニョルは僕を抱き締めた。

「…ありがと。」

抱き締められていてチャニョルの表情は見えないけれど、その低く呟く様な声は優しかった。

素直になれない僕を、いつだってこうしてチャニョルは包み込んでくれる。

ああ、僕は幸せだな。

そう思うと、柄にも無く涙が込み上げてきた。

ガーベラの香りとチャニョルの香りが体温で甘く溶け合う。

その香りを深く吸い込む。

今日は照れずに素直に君に伝えよう。

「…チャニョルおめでとう。これからもよろしく。」




Fin.

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