セジュン

□美しい人
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ジュンミョン教授は美しい。

若干20代にして教授になる程優秀なのに、それを奢ることも無く、研究室の駆け出しの新米助手の俺にさえ気さくに声を掛けてくれるから、上からも下からも慕われている。

ジュンミョン教授は天から二物も三物も与えられているんじゃないかと思う。

俺は嫉妬しているとかそんなんじゃなく、ジュンミョン教授を尊敬していたし、実は密かに憧れていた。

ただ、不思議なことにジュンミョン教授からは全くと言っていい程私生活の匂いがしない。

それは俺が新米だからという訳ではなく、この研究室に居るみんな、誰1人としてジュンミョン教授の大学以外での姿を知らないのだ。

ジュンミョン教授のことと言えば、ほのかに香る香水とネクタイのブランドから、彼の趣味が伺えるぐらいだ。

ある日、研究室の奥にあるジュンミョン教授の部屋にデータを提出しに行くと、珍しくジュンミョン教授は椅子に掛けたままうたた寝をしていた。

冬の西日を受けるその顔は相変わらず美しくて、俺は本来の用事を忘れて思わずジュンミョン教授の姿に見とれて立ち尽くしてしまった。

ふと、俺はジュンミョン教授の首筋についている紅い跡に気付いた。

これって…。

その時、ジュンミョン教授の瞼がうっすら開き、俺は首筋から視線を逸らした。

「…ん。あ、ごめんね。僕少しうたた寝しちゃってたみたい。」

「あ、いえ…すいません。これデータです。教授、最近忙しかったからお疲れですよね。」

ジュンミョン教授は俺からデータを受け取ると、フフっと笑った。

「ありがとう。ちょっと昨日は遅くなってね。」

その笑い方が、いつも見せるジュンミョン教授の顔と違う様な気がした。



「あいつおっせーな…。」

その週末、同じ研究仲間と百貨店の傍で待ち合わせをしていた俺は、寝坊した相手に待ちぼうけを食らわされていた。

まだかと顔を上げると、いつもの丸メガネは外してラフな格好をしているものの、目の前をジュンミョン教授が歩いていた。

その傍らには、スラッとして顔の整った、年下だと思われる青年が寄り添っていた。

弟?それにしては似ていない気がするけど…。

声を掛けるのをためらっていると、ジュンミョン教授は研究室では見せたことの無い様な笑顔を青年に向け、人混みの中に消えて行ってしまった。

「…。」

その後、遅刻してきた仲間が謝るのを聞き流しながら、俺はぼんやりジュンミョン教授のことを考えていた。

週明け、朝一番に研究室に顔を出すと、既にジュンミョン教授はデスクに掛けてコーヒーを飲んでいた。

相変わらず今日も美しい。

「おはよう。早いんだね。」

俺に向ける笑顔は、いつもの「ジュンミョン教授」の笑顔だ。

それに苛立ちを感じるのはなぜだろう。

「おはようございます。あの…週末にジュンミョン教授をお見かけしました。」

「そうなの?声を掛けてくれれば良かったのに。」

「隣に居たの、弟さんですか?仲が良いんですね。」

ジュンミョン教授はきょとんと一瞬目を丸くしたかと思うと、妖艶に笑った。

「あぁ…。セフナのこと?彼は僕の恋人だよ。」

そう言うジュンミョン教授はやっぱり美しくて、けどきっと俺なんかが手の触れることのできない遠い存在だった。



fin.

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