セジュン

□レモネードに溶かした純情
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お題ったーからもらったタイトルで作ってみました。


僕の幼い頃の思い出といえば、ヒョンの作ったレモネードだ。

笑っちゃうぐらい不器用なヒョンが唯一作れるのがレモネードで、まだ台所に立つのに足台が必要な背丈だった頃から、一生懸命作ってくれたのをよく覚えてる。

共働きでの両親に代わり、一人っ子だった僕にそう言ってレモネードを飲ませてくれた幼なじみのジュンミョニヒョンは、まるで実の兄の様でもあり、両親の様でもあった。

「おいしいねぇ。」

「うん!」

こうやって2人で分け合うからこそ…という特別感もあったからかも知れない。

僕とヒョンだけの大切な思い出。

きっとあの頃から、僕はジュンミョニヒョンが好きだ。




「ヒョンー!帰ろ!」

ガラリと教室のドアを開けると、いっせいにクラスの視線が集まる。

その視線には、羨望や嫉妬…様々な感情が入り交じっているが、そんなものは気にしない。

幼なじみの特権を使わないなんて手はない。

恨むなら、幼なじみに生まれなかった自分の運命を恨むんだな。

「セフナ、お前友達居ないのかよ…。」

「居なくてもいいもん。ヒョンが居るから。」

あのな…と呆れ気味に言いながらも、優しいヒョンは僕に付き合ってくれるみたいだ。

「そうは言っても、僕は春には卒業するでしょ。そろそろブラコンも卒業しなきゃ。」

「なに、ヒョンは僕から離れたいの?」

「そういう訳じゃないよ。セフナに友達が居ないのは僕のせいじゃないかって、責任感じてるんだよ。」

内弁慶な僕と違って、ジュンミョニヒョンは社交的で友達も多い。

でもね、ヒョンが気付いてないだけで、ヒョンを友達以上に見てる人間は沢山いるんだよ。

僕も、ジュンミョニヒョンのことをただのヒョンなんてみていない。

『ブラコン』なんて言葉で片付けないでよ。

「じゃあ。」

ぴたりと歩みを止めると、ヒョンは訝しげに僕を見つめる。

「友達でもヒョンでもなければ、そばに居ることを許してくれるの?」

「え?」

その訝しげな顔さえ、僕をかきたてるには充分だ。

何か言いたげに開きそうなジュンミョニヒョンの唇をすかさず塞ぐと、仄かにあの時のレモネードの様な爽やかなヒョンの香りが鼻をかすめる。

「なっ…セフナっ…。」

「言っとくけど、小さい頃から僕はヒョンのことをただのヒョンなんて思ったことないからね。」

目を白黒させ、耳まで真っ赤にしたヒョンを置いて、僕はじゃあと家の扉を開けた。

その夜、ヒョンのレモネードを思い出しながら作ってみたけど、やっぱりヒョンのには敵わなかった。

「おはよ…。」

翌日、まさか僕を待ってるなんて思ってもいない顔がそこにはあった。

僕の少し前を歩くその背中は、僕より華奢だけど、それでも広くて温かい。

「あのさ…。」

「うん。」

「昨日、久しぶりにあの頃のレモネード作ってみたんだけど、1人だと美味しくなかった。」

「うん。」

「…それって何でかって考えたけど、セフナが居ないからなんだ。」

「うん。」

「ずっと…。」

「ずっと?」

「セフナにずっとそばに居てほしい。」

さらさらと春風になびく長めの前髪が、赤く染まった顔を彩る。

「…これからも、ジュンミョニヒョンのそばに居てもいいの?」

こくりと頷くヒョンをそっと抱き寄せる。

淡いレモネードに溶けたような純情、これから鮮やかになるのかな。


fin.

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