セジュン
□うさぎ先生と僕
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僕は先生のことを、密かに「うさぎ
先生」と呼んでいる。
もっとも、先生にはちゃんとした「キム·ジュンミョン」という名前があるんだけれど。
うさぎ先生、もといジュンミョン先生は、僕の家庭教師だ。
なんでも、ジュンミョン先生はとても優秀らしく、高校を一学年飛び級で卒業したそうだ。
今は、韓国でも五本の指に入る様な超有名大学の医学部生らしい。
ジュンミョン先生が僕の家に来る様になったのは、「教授一家の息子であるセフンが出来損ないなんてみっともない」だからそうで、父の友人の息子であるジュンミョン先生に家庭教師の白羽の矢が立ったのだそうだ。
いわゆる反抗期だった僕は、父の言う通りなんかにするもんか、1回家庭教師と顔を合わせたら後は適当に消えようなんて考えていた。
そもそも、家庭教師が綺麗なヌナだったらまだしも、男ってだけでテンション下がるし。
けれど、だ。
「初めまして。キム·ジュンミョンです。よろしくね、セフン君。」
ふわふわの髪に透き通る様な白い肌、緊張からかほんのり上気した頬に大きな瞳。
まるでうさぎを思わせる様な白い手を差し出されると、僕は柄にも無くどぎまぎしてしまった。
「…よろしくお願いします。」
その手を握り返すと、ふわふわしていてやっぱりうさぎみたいだなぁと、我ながら男相手に可愛いと思っている自分はどうかしてる。
「…で、ここまでの説明分かるかな?」
伏せる長い睫毛とペンを持つ白い手に見とれていた僕は、ジュンミョン先生の説明なんてほぼうわの空だった。
あれから密かに「うさぎ先生」と呼んでいるジュンミョン先生は、週に2回だけ僕の家にやって来る様になった。
先生は優秀なだけあって、分かりやすく丁寧に教えてくれる。
それはいいんだけれど、更に近い距離でジュンミョン先生を見ているといかんせん集中ができない。
いったい、これで何回目だろう。
「…すいません、先生に見とれてて聞いてませんでした。」
正直にそう言うと、えぇ〜?と素っ頓狂な声を上げて先生は困った様に笑った。
「セフナまだ高校生でしょ、そういう言葉は好きな子に言わなきゃ。ほら、続きしよ。」
そう軽くあしらわれた僕は、ムカッとした。
先生だって僕とたった3つしか変わらないの に。
「…何でそんなに軽くあしらうんですか?」
そう言うと、ジュンミョン先生はテキストをめくる手を止めた。
「じゃあさ」
先生はテーブルに頬杖をつきながら僕の方に身を乗り出した。
「僕のこときちんと誘惑してくれなきゃつまんないよ。セフンおぼっちゃま。」
クスリと笑うと、先生は僕の唇に人差し指を当てた。
「おふざけはここまで。さ、本当に続きやらなきゃ。」
僕が目を白黒させていることはお構い無しに、先生は涼しい顔でテキストをめくり始めた。
─うさぎの性格は、穏やかで賢くて、そして意外と気が強い。
うさぎ先生は、僕にとってなかなか手強い相手みたいだ。
Fin.