セフド
□Lie
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「愛してる。」
まるで自分の話す声が、誰かが話しているみたいに他人事の様に聞こえる。
「僕もです。」
そう言って微笑んで、愛しげに僕の首筋にキスを落とすセフナに胸が痛まない訳じゃない。
ただ、その胸の痛みはセフナに対する愛ではなく、罪悪感からだけど。
目を閉じると、セフナの身長差と高い鼻の感じがあいつを思い起こさせる。
そう、何度心の中で呼んだって、あいつは─チャニョルは戻ってこないのに。
セフナの肩越しに、部屋の壁に反射した月明かりをぼんやりと見つめていたら、いつの間にか全て終わっていた。
そうだ。
チャニョルに初めて抱かれたのも、こんな月明かりの綺麗な日だったっけ。
『愛してる。』
低い甘い声を思い出すと、震えが止まらなくなった。
僕とチャニョルはどこにでも居る様な幸せな恋人同士で、付き合って3年目、男同士だから結婚はできないけど、このままずっと一緒に居られたらいいねって、2人で住める広い部屋を探している所だった。
そんな幸せが一変したのは、チャニョルが事故に遭って、突然この世を去ってしまってからだ。
駆け付けた病院で、奇跡的に顔は無傷でまるで眠っているかの様なチャニョルを見ると、全てが嘘だったんじゃないか、悪夢を見ているだけじゃないかと思えてきた。
『行ってきます!今日はギョンスの味噌チゲね〜。』
『今日はお前がご飯当番だろ?』
『どうしてもギョンスのが食べたいの!』
『しょうがないな…。』
『やった!』
いつもと変わらない会話を交わして出ていったはずなのに。
いつもと同じ朝だったはずなのに。
「嘘だろ…?」
そう触れた手は冷たくて、受け入れないといけない現実が一気に押し寄せてきて、そこから先は一切覚えていない。
気が付くと、自分の弟の様に可愛がっていたチャニョルの弟─セフナの腕の中で泣いていた。
「これからは、僕がギョンスヒョンのことを守ります。」
不安定だった僕を見兼ねて、献身的だったセフナに全てを委ねると言う形で、僕はチャニョルを失ったという辛い現実から逃げ出したんだ。
セフナは優しい。
まるでぬるま湯に浸かっているみたいだ。
僕が時々不安定になっても、優しく抱き締めてくれるし、望むものは何だって与えてくれる。
でも、そこにどうしてもチャニョルの影を追ってしまって、こんな関係になってしまってから、やっぱり自分の弟みたいな存在だと改めて気付かされた。
僕は、セフナの好意に依存して、利用しているんだと。
「…ヒョン?」
震えに気付かれまいと、ベッドから出て水を飲んでいると、いつの間にかセフナも起きて来ていた。
「…ごめん、起こしちゃったね。」
「いえ、少し寒いなと思ったら、ヒョンが居なかったから。」
そうふにゃりと笑うセフナはどこか幼くて、恋人への愛情と言うよりも、やっぱり守らなきゃいけない弟への愛情が湧き上がる。
それと同時に、やっぱり胸の奥がズキリと痛む。
「セフナ、あのね…。」
「ヒョン、寒いから布団に入りましょう。」
そう言うと、ふわりと僕を抱き締めて、その先の言葉を封じた。
「やっと僕のものになったんだから…。」
「え?」
「…何でもありません。愛してます、ヒョン。」
「うん…。」
「ヒョンは僕のもの。」
そうまるで魔法をかける様に言い聞かせるセフナの手を、僕は離すことができなかった。
fin.