カイド

□Shadow
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サイコパスギョンスです。若干R入ります^^;苦手な方はご注意下さい。






「素敵な絵だよね。」

俺とギョンスが出会ったのは、地元の美術館で行われていた企画展だった。

ダンスを習っている俺は、スクールのオーナーの「感性を養う教育」とやらの一環で、美術館を訪れていた。

一緒に訪れていた仲間とはぐれた俺は、ぼんやりと特に興味の無い絵を暇潰しに眺めていた。

「え…あぁ…。そうですね。」

半個室になっていたその展示室には、辺りを見回しても俺と彼しか居なかった。

どうやら彼は俺に話しかけていたらしい。

「初対面なのにごめんね。僕もこの絵が好きなので、つい話しかけちゃって…。」

そう言って絵を見上げる彼は、さらさらした黒髪から白目がちな大きな瞳が覗く印象的な顔立ちで、その白い肌によく映えるぽってりとした紅い唇に目が行き、何故か見てはいけないものを見てしまった気持ちにさせられた。

俺が彼の唇を凝視していたところに、急に振り向かれて視線がぶつかった。

「この絵の逸話を知ってる?」

「あ…いいえ…。」

どうやら彼には俺の視線は気付かれていなかった様で、心の中で安堵の息を吐いた。

「この絵の主人公はダンサーなんだ。一見美しく踊っている様に見えるよね。けど、その影に見えている人物はダンサーのスポンサーなんだよ。…華やかな世界にも裏があるってことだね。」

「詳しいんですね。」

自分もダンサーだから、この絵の解説をしてもらえた偶然に驚いた。

「僕、一応ここの美術館で学芸員してるから。」

「そうなんですね、どうりで詳しいわけだ。」

「まぁね。それにしても、君何か驚いてたね。」

「俺もダンサーしてるんで、偶然だからすごいなって思って…。」

「そうなんだ。なら丁度良かった。」

静かな空間に響く低く甘い声。

俺はその甘い声が、その紅い唇から発せられる姿をもっと見たい。そんな欲求が自然と沸き起こった。

「また来ても良いですか?」

気が付けば、俺は会って間もない、名前も分からないその人にそんな事をお願いしていた。

「良いよ。空いていたら僕が解説するから。」

そう言って彼は静かに微笑んだ。

それからの俺は、何かに魅せられたかの様に足繁く美術館に通った。

彼はそこまで俺が通って来るとは思っていなかった様で、最初は驚いていたみたいだが、面倒くさがらずに解説をしてくれた。

そして、彼の名前は「ギョンス」であること、一つ年上であることが分かった。

最初は絵に興味の無かった俺だったけど、ギョンスの口から語られると、不思議とどの絵も生き生きとして見えてくる。

それを伝えると、控えめな笑顔で嬉しそうに笑った。

「そうやってジョンインが熱心に聞いてくれて、仕事のし甲斐があるよ。」

俺とギョンスが惹かれ合うのにはさほどの時間はかからなかった。

閉館前の平日の静かな夜、俺たちの出会ったあの絵の前で、ギョンスに気持ちを伝えた。

「僕も…あの時からジョンインに惹かれてた…。」

うつむいて恥ずかしげに答えるギョンスの紅い唇を見つめながら、その唇に早く触れたいと思った。




普段きっちりと着こんでいるギョンスのシャツに手をかけるのは少し躊躇われたけど、ひとつ外してしまうと後は何も気にならなかった。

その白い肌も、紅い唇も、甘い声も全て俺のものになると思うと、酷く興奮した。

「好き…ジョンイナ…好き…。」

うわ言の様に呟くギョンスの言葉に、俺も魔法に掛けられた様に夢中でその白い肌に痕を付けた。

ギョンスを抱き締めて寝ていると、ふと胸に唇がふわりと当たる感触がした。

腕の中のギョンスを見ると、その大きな瞳で俺を見上げた。

「何?」

聞くと、ギョンスはふふっと妖艶な笑みを浮かべて、俺の胸に指を這わせた。

「ジョンイナ…。ずっと傍に居てね。もし僕から離れようとしたら、許さないから。」

俺は、今まで見せたことの無いギョンスのその表情にゾワリとした。

けれど、そんな顔を見たのはその時だけで、後はお互いの家を行き来してはギョンスの得意の料理を振る舞ってもらったり、俺のダンスを見に来てもらったり、ギョンスの働く美術館に行っては話したりと、穏やかな毎日が過ぎた。

そんなある日、ダンススクールの発表の打ち上げがあった。

帰りはすごく遅くなるからとギョンスに連絡はしていたものの、俺は先輩に相当飲まされて前後不覚になっていた。

気が付くと、ホテルの一室に横たわっていた。

隣には同じスクールの後輩が居た。

やられた…。

その後輩は以前からずっと俺に言い寄っていて、恋人が居るからと断っていたものの、それでもいいからと迫られて困っていた。

今日もなるべく関わらないようにしていたが、まさか酔った隙をつかれるとは、俺のツメが甘かったと頭を抱えた。

自分の意思ではなかったものの、ギョンスに対する罪悪感で頭が一杯になった。

「先輩…。ごめんね。どうしても先輩のこと諦められなくて…。」

「…帰る。」

ギョンスからの着歴を確認した後に家に帰ると、案の定灯りは消えていた。

そうだよな…と、残念な気持ちと少しホッとした気持ちになって荷物を下ろした。

「お帰り。」

リビングに入ろうとした所、背後からギョンスの声が聞こえた。

振り返ると、無表情で冷たく俺を見詰めるギョンスが居た。

「…ただいま。遅くなってごめん…。」

「遅くなるって言ってたから平気だよ。…けど、次はシャワーぐらい浴びてから帰りなよ。」

パタンと静かに締まるドア。

暗い廊下に取り残された俺の背中には、冷たい汗が一筋伝うのが分かった。



「え?辞めるって?」

翌日。

重い体を引きずってダンススクールに行くと、昨日の後輩が急に辞める事になったと言われた。

「それが理由をきちんと言わなくてさ。とにかく、ここにこれ以上居れませんって、様子が少しおかしかったんだけど…。ジョンイナ何か理由とか聞いてる?」

「いえ…。」

「人が足りないのに、急に辞められても困るんだけどね〜。」

俺は引っ掛かるものを感じながら、その日の仕事をこなした。

「仕事が終わったら、美術館に来て。」

休憩時間にギョンスからそうメールが来ていた。

ギョンスのメールはいつも簡素だけど、今日はいつもに増して感情の色が感じられない。

閉館間際の美術館には、客は俺しか居なかった。

最初に出会ったあの展示室まで進むと、ギョンスが壁に寄りかかって絵を眺めていた。

「ギョンス…。」

「ねえ知ってる?」

絵を見上げながらギョンスは話し始めた。

「…この絵の主人公は、恋人を裏切ったんだよ。その罰として、裏切った恋人に殺されては生き返り、また殺されるっていう無限のループに落とされたんだ。」

そう言って俺の方を振り返って、あの時と同じ様に妖艶に微笑むギョンスの姿に、全身が粟立った。

「言ったでしょ。僕から離れようとしたら許さないって。」

そう言って俺の頬に手を添えた。

その手は、まるで血が通っていないかの様に酷く冷たかった。

「あれは…俺の意思じゃ…。」

「分かってるよ。あの女が悪いんだもんね。だから、今回は許してあげる。」

そう言って、頬に添えた手を離して、俺の手をぎゅっと握った。

「そう、ジョンイナはずっと僕の物だからね。」

その紅い唇から発せられる低く甘い悪魔の囁きに、俺は一生逃れられないと悟った。



fin.


_________

サイコパスチックなギョンスやってやりました(笑)
一回は書きたいと思っていたので満足です!

ギョンスは影のある役が似合いますね。
そして、サイコパスギョンスの相手役にはまるのは、個人的にはチャニョルよりはジョンインなイメージです。

ちなみに、ジョンインに言い寄っていた後輩を辞めさせた方法は、彼女の弱味を掴んでいて(そうなる前から目は付けていた)、脅したと思われます。
知っていて泳がせてたのは、ジョンインの弱味を掴んで離さないようにするためですね〜。
怖いだろうけど、魔性の魅力から抜けることができないジョンインでした。



当時の自分の解説(?)もそのまま転記しました。
文章は不自然な部分などは手直ししました。

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