レイチェン

□偶然という名の運命
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人生は何が起こるか分からない。

平凡な日常が、ふとしたきっかけで180度変わってしまうこともある。

俺にはそれが、イーシンヒョンとの出会いだった。



「ジョンデ、芸能事務所のオーディションを受けてみないか?」

そう先生から持ちかけられたのは、音大の受験に失敗して、個人レッスンに通っていた時の事だった。

これ、と渡されたオーディションのパンフレットの社名は、誰もが知っている大手の事務所のものだった。

「えっ、こんな大きい所、俺なんかじゃ無理ですよ…。」

その時の俺は、先の見えない毎日に疲れ果てていて、もう歌手の道は諦めて普通の大学生になろうかと思っていた時だった。

「ジョンデ、折角なら1度だけ本気でやってみたらどうだ?諦めるのは、それからでも悪くないじゃないか。」

辞めたいと相談に乗ってくれていた先生は、ジョンデは才能があるからと、何とかここまで引き止めてくれた恩人だ。

せめて先生の最後のお願いを聞こう、俺はそう決心してオーディションを受けることにした。


「うわぁ…。」

オーディション会場には、それこそ華のある美人やイケメン、それに歌の上手そうな子達が集まっていた。

胃が痛い…。

キリキリ痛む胃をどうにかしようと、俺は集合時間まで開放されている練習室に籠ることにした。

鞄から楽譜を取り出してめくると、色とりどりのペンで注意書きやアドバイスを書き込んだページが現れた。

「これとも今日でお別れか…。」

そう考えると少し切なくなって、表紙をそっと撫でた。

スッと息を吸い、歌い慣れたその曲をアカペラで歌い始めた。

俺は小さい頃から歌うのが好きだった。

「ジョンデは歌が上手いのね。」

そう言って、母さんが笑ってくれるのが何より嬉しかった。

そう、俺の声で誰かを幸せにできる、それが俺にとって何より幸せだったんだ…歌いながらそんなことを思い出していた。

パチパチパチパチ

歌い終わると同時に、俺だけしか居ないはずの練習室に拍手が響き渡った。

「すごーい!感動しちゃった!君、新しい練習生?」

振り返ると、片笑窪が印象的なイケメンがニコニコしながら俺の方を見ていた。

彼はここの事務所の練習生だろうか。

「あ…いえ…。俺はオーディションを受けに来たんです。」

「そうなの?上手いから、てっきり練習生かと思っちゃった!」

「ありがとうございます…。」

俺が顔を伏せると、彼は俺の近くまで歩み寄ってきた。

「どうしたの?なーんか暗い顔しちゃってるけど。」

「いえ、その…今回が最後のチャンスなんですけど、何かみんな凄そうで自信無くしちゃって…。」

そう俺が言うと、ガバッと急にそのイケメンに抱き着かれてしまった。

「えっ!?ちょっ!何ですか!?」

「大丈夫だよ。」

そう優しく囁くと、ポンポンと俺の背中を彼は優しく叩いた。

「大丈夫、君はきっと上手くいくよ。」

「え…。」

戸惑っている俺に彼は目を合わせて、ニッコリ笑った。

至近距離で見る彼はとても美しくて、俺の心臓は男相手なのに鼓動を速める。

「何か…君と僕とは今後もずっと一緒にやっていくような気がするんだ。直感だけど…。」

「直感…。」

「あ!もちろん君の歌声が素晴らしいからだよ?!」

慌てた様に付け加える彼に、俺は思わずクスリと笑った。

俺が怒っていないのが分かったのか、彼はホッとした様だった。

「僕の名前はチャン・イーシン。受かったら、また会おう。」

そう言うと、彼は風の様に出ていってしまった。

「チャン・イーシン…。」

俺は、まだ彼の体温の残る服をギュッと掴んだ。





「イーシン、候補生のキム・ジョンデ君はどうだった?」

「歌10、態度10、見た目も今後更に伸びるとして10、パーフェクトですよ。」

「そうか、イーシンがそこまで言うなら大丈夫だな…。合格にしよう。」

「それに…僕ジョンデ君に一目惚れしちゃったしね。」

「何か言ったか?」

「いえ、頼もしい仲間ができたなぁと思って…。ふふ。」





人生何が起こるか分からない。

偶然の出会いで、平凡な日常が色彩を持って華やぐから。

僕にはそれが、ジョンデとの出会いだった。

それは偶然という名の必然で、僕にとっては君が運命だったんだ。


Fin.


ジョンデ、お誕生日おめでとう👏

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