レイチェン
□Monster(レイside)
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「痛っ…。ヒョン…?」
壁際に追い詰めた君は、怯えた目で僕を見返す。
掴んだ手は恐怖で震え、冷たい。
その揺らぐ目線も白くなった指先も、今は全て僕を煽る材料にしかならない。
僕とジョンデは某企業の研究員で、僕は中国支部との人事交流で韓国にやってきた。
ジョンデは1つ年下だけれど、優秀で少し中国語もできるということで僕の指導係としてミットを組むことになった。
「イーシンさん、よろしくお願いします。」
ジョンデに初めて会った日の事はよく覚えている。
下がり気味の眉毛にキュッと上がった口角、少し高い声、全てが僕のタイプで、本能的に「彼だ。」と自分の中の何かがざわりと音を立てて起き上がる感覚に襲われた。
穴が空くほど見つめている僕を、ジョンデは韓国語がまだ不自由なのだと勘違いしたのか、手取り足取り親身に僕の面倒を見てくれた。
ジョンデは中身も僕の理想通りで、ますます日が経つと共に彼に惹かれていった。
「何か、ヒョンって可愛いですよね〜。」
「えぇ〜?可愛いなんて初めて言われたよ〜?」
「あはは、そのふわっとした喋り方、男の僕から見ても可愛いですよ。」
そう言って軽く目を伏せたジョンデの長い睫毛が、その白い頬に影を落とす。
その姿の方が、僕からすると何倍も魅力的だと思う。
と同時に、僕の中で眠っていたあのざわりとした感覚がまた呼び戻される。
そんな姿を見ることができているのは僕だけ?
そんなに簡単に君は誰かに可愛いって言うの?
「…簡単に言うんだね。」
「え?」
気付くと口に出していて、ハッとすると、ジョンデが不安そうな顔をしている。
「…いや、男になかなか可愛いって言わないじゃん。」
「イーシンヒョンにしか言いませんよ、こんな事。」
そう笑うジョンデの姿を見て、僕は分かったんだ。
君は僕の中の「衝動」を引き出してしまったんだと。
君が笑う度、君が触れる度、愛しいと思うと同時に、君が泣いて縋って僕だけが好きだと言って欲しい、そんな衝動に駆られた。
そんな僕に、好機が巡ってきた。
期日が迫っている研究があり、担当している僕とジョンデの2人で残業を命じられたのだ。
この施設には今、僕とジョンデの2人きり。
時計の針は既に0時を回っている。
「ヒョン、少し休憩しましょうか。」
「そうだね。頑張りすぎちゃったね。」
無防備に笑うジョンデを見ながら、僕は今からジョンデに伝えようとしていること、そしてしようとしていることを知ったらどんな顔をするんだろうかと、不安ではなく期待に身震いをした。
いつも通り談笑し、ふと会話が途切れた瞬間、僕はジョンデにストレートに伝えた。
「ジョンデ…前からずっと伝えたかったんだけど、僕ジョンデの事が好きなんだ。」
ジョンデは、一瞬きょとんとした顔をしたかと思うと、くしゃりといつもの笑顔になった。
「僕も、イーシンヒョンのこと好きですよ。」
その瞬間、僕の中でギリギリの所でセーブしていた壁が崩れた。
気が付くと、僕はジョンデの腕を掴んで壁際に押し付けていた。
「痛っ…。ヒョン…?」
壁際に追い詰めた君は、怯えた目で僕を見返す。
掴んだ手は恐怖で震え、冷たい。
その揺らぐ目線も白くなった指先も、今は全て僕を煽る材料にしかならない。
「僕の『好き』は、ジョンデを僕だけのものにしたいっていう好きなんだよ?気付いてた?」
「…。」
青ざめた顔は動かすこともできず、僕のほの暗い目を覗いている。
「…返事が無いならyesだって思うよ。」
「やめっ…イーシンヒョンっ…!」
抵抗するその声を、唇で塞ぐ。
引き裂いて全てさらけ出して奪って、その悲鳴さえ僕にとっては何よりのごちそう。
君にとって僕はモンスターなんだろうけれど、ここまでさせる君も僕にとってはモンスターなんだよ。
泣き濡れて、気を失っている君の頬を撫で、愛しさに思わず微笑む。
そう、僕は君を愛してる。
Fin.