Dream
□彼女の事
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彼女だ!運命なんてあるのか。
「あ、ごめんなさい。ネコのイニシャルがついたキーケースなんですけど落としてしまって…車の鍵とか家の鍵だから帰れないんです…この席だったから、下に落ちたのかな…って!!!羽生さんじゃないですか?!え?え?」
初めの冷静な話し方とは、変わって、少し興奮気味で話す彼女が可愛かった。初めて声を聞いた。想像どうりの声とリアクションで俺の中のS心がざわついたんだと思う。
「羽生さん、すごく!素敵でした!私、初めて生で観たんです!すごかった!また来てください!もっと、羽生さんを見ていたくなっちゃいました。あ、鍵…帰れない…」
四つん這いになって必死に探す彼女に
『もしかして…』
『これ?』とさっきポケットに入れたキーケースを出そうとした。
けど、出して渡してしまったら、ただの選手とファン。
違う世界に行かなくては行けない。
一目惚れなんて何回もある。だけど、その相手がこんなに近くにいる。こんなチャンス手放したくないとさえ思った。
『ねえ、今日俺の宿泊先のホテル泊まっていかない?部屋余ってるし。』
『だって、車の鍵とかなければ動かないでしょ?家にも入れないなら…』
「あの、羽生くんは凄い人だと思うけど見ず知らずのしかも女性を部屋に招くのはどうかと思いますよ。」
さっきまでの、俺に対する素敵でした♡みたいなオーラは全く無く厳しく叱られた。
『そしたらさ、明日もショーあるから、来てよ、始まる前に探しておくからさ』
俺は何とか、彼女を引き止める為に食い下がらなかった。
『見つかったら、連絡するから連絡先教えて?』
「わかりました。今なら、タクシー乗れば終電も間にあうし…よろしくお願いします。」
『気をつけてね。』
俺は何とか、そんな一目惚れした、彼女との連絡手段を手に入れた。ポケットにあるキーケースのネコをぐっと握りしめて小さなガッツポーズをした。
「ちあきさん…ね」
彼女は深々と礼をして、その場を立ち去った。
居なくなってスグにポケットからキーケースを出しネコのマスコットに触れるか触れないかのチュッと音をさせるキスをした。