見た目は子供、頭脳はスパダリ、その名もスナイパー赤井!!

□暴走空手娘との別れと、幼児化したFBI捜査官との再会
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暴走空手娘のお姫様時代が終わる

 沖矢について灰原が知らされていることは少ない。組織の気配を感じることから元組織の一員だろうということ、コナンの言葉に耳を傾けられるぐらい賢くて実力主義であること、どうやら自分のことを守ってくれているみたいだということ。元組織の一員で灰原のことを守ってくれる人なんてそう多くいないので、それだけで沖矢の正体に検討はついた。
 諸星大…姉である明美を利用した人間であり、黒ずくめの組織で唯一殺されることなく組織抜けした切れ者捜査官。けれど、灰原が知っている諸星大はそんなのではなかった。

 「研究に熱中しすぎだ。そろそろ寝ろ」
 「うるさいわね、あなたに関係ないでしょ」
 「志保君が倒れたら明美が悲しむ」
 「…言わなきゃいいじゃない」
 「明美はあれで鋭いところがあるぞ。隠しきれるつもりか?」
 「……分かったわよ。ちゃんと休むわ」
 「それでいい」

 諸星大は任務の合間に灰原に会いに来て様子を見に来てくれた。組織の方針でなかなか会いに来れない明美の分も、諸星大は灰原を気にかけてくれたのだ。
 今まで明美に接触してきた人間はみんな組織に入る、あるいは地位を向上させたくて、そのための繋ぎの繋ぎとして明美を利用するだけで、そうして志保を利用するだけで終わりだった。だから明美への態度はかなりぞんざいであったし、明美はそれに慣れっこで適当に流されておくことでやり過ごしていた。彼らはみんなあくまで主体は灰原であり、明美なんておまけに過ぎないという態度を前面に出していた。しかし、諸星大は違った。諸星大はあくまで明美の妹だから灰原を構っているというスタンスをライというコードネームをもらっても崩さなかったのだ。諸星大からすれば組織に入り、幹部入りした時点で明美に利用価値はないはずで、明美もコードネームをもらったと聞いた時点で別れを切り出されることを覚悟していたのに。

 「心配するな。お前も志保君もちゃんと守る。危険な仕事ばかりなのは事実だが、生きてお前達の元に帰ってくる」

 そんな明美の不安を自分の心配と勘違いしてそう言った諸星大の中に、明美と別れるなんて考えは一切なかった。明美からその話を聞かされた時、灰原は諸星大なら明美を幸せにしてくれるだろうとその関係を祝福したものだ。
 諸星大のことで灰原が知っていることは、見た目と違って意外と世話焼きであること、情が深く敵には容赦しないくせに身内にはとても甘いこと、明美を利用しながらも愛していたこと。
 明美だって組織から抜けるためにと諸星大を愛しながら利用していたからお互い様だし、組織に始末されないよう上手く立ち回れなかったのは灰原たち姉妹なので、灰原は諸星大のことを恨んでいなかった。だから沖矢が諸星大であったなら、変わらず自分たち姉妹を気にかけてくれている証拠だからとそれを望んでいた。
 けれど今は、沖矢が諸星大でないことを必死に祈った。明美に引き続いて諸星大まで喪ったら…灰原はその悲しみに耐えられそうになかった。組織で唯一明美を真っ向から見て愛してくれた人。灰原のことをシェリーではなく志保として見てくれた人。兄のようだと、慕っていた人。NOCとして優秀でありながら、NOCに向いてないほど情が深い人。自分たち姉妹のことを忘れ去ってでもいいから生きていて欲しかった。けれど…

 「バーボン・ウイスキー…あの人が好きなお酒」

 工藤邸に残る沖矢の、沖矢の中の人の痕跡は…

 「ショートホープ…あの人がよく吸ってた煙草」

 嫌になるほど諸星大と同じで…

 「バカ…ッ!!」

 沖矢昴の正体が諸星大であることを物語っていた。
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