植木鉢(またはオリジナル短編・中編集)

□変人二人、放課後。
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「八年間分の卒業生の物だからなあ……。量的には、大きめのキャリーバックとかなら収まるくらいしかなかったはずだけど……」
「なら、分割して運べばすぐじゃないか?徒歩以外で来ている生徒だって、最初のうちにちょっとずつ運び出して、気づかれそうなくらいに減ったら一気に持って帰れる量にはなっているだろうし」
「いや、無理だ」
 そういって糠釘は、私の席の横に置かれた二人分の、学校指定のスクールバックを指した。革製の黒いそれは、一年以上も使って既によれ始めて居る。
 高校に入って支給されたこのバッグ以外は、サブバッグとしてしか使用不可になっている。
 隣の学校は、リュックも可だというのに、なんともお堅いことだと、入学説明会の時に呆れたものだ。
「このバックじゃ、美術部で支給されてるスケッチブックはぎりぎり幅が収まらねえんだ」
「へぇ……。役に立んな」
「だろう?だから、来年からは三斗センセがバッグに入るサイズのスケッチブック買ってくれるって」
「良かったじゃないか。
よっぽど三斗先生がお気に入りなんだなあ、お前」
 糠釘は、「そうかなぁ?」と首を傾げ、直後に何かを思い出したように声を上げた。
「そうそう、三斗センセって、結構美術部員はじめ人気が高くってさあ。それで、卒業生のスケッチブックの中から三斗センセのを探そうとしてる奴、結構いたなあ」
「じゃあ、三斗ファンの可能性も高いってことか?」
「ああ、特に一年にすげえ熱い人気があって、ファンクラブまがいの物もできてるって……。だからそれによって行動が制限されてしまったとか何とか、三斗センセ目当てで入部した馬鹿な後輩がぼやいてたよ」
「ふうん、じゃあ、勝手にスケッチブックを持って行くというのはないか。……でも、それだったらさっき私が言ったやり方で、鞄もスクールバッグ意外に用意すれば三斗先生のスケッチブックを持って帰れるんじゃないか?」
「ああ、それならありかもな。でも、だとやっぱり帰ってこなくなるか、スケッチブック」
「元より諦めたほうがよかった案件じゃないのか」
「うーん……でもなあ」
 糠釘が絵筆を置いて腕を組んだ。
 ここまで真剣に下心に忠実な糠釘は見たことがない。私は、ちょっとした興味が湧いてきた。

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