狐に嫁入る。

□ご
1ページ/1ページ


「君は覚えてないと思うんだけど……

「ああ別に無理に思い出せってんじゃないから、
まだ気にしなくていいよ。
そのうち思い出すだろうし

「というか、この話聞いたら思い出すだろうし

「そうだな、さかのぼること――十年前、くらい?

「葛葉ちゃんと俺はここで出会ったんだ

「この地の、すぐそこの畑で

「葛葉は風邪で、家族はお祭りに行ってて、
お前のおばあちゃんと二人だけ、家で退屈していたらしい

「そん時俺、たまたまここから降りて村の畑でも荒らして食い物たべようと探していたんだ

「お稲荷様が何で畑荒らしてるのかって?
いいじゃん別に。腹減ってたんだし

「で、そん時にこっそり家から抜け出したお前と会ってさ、
それでいきなりお前が俺に話しかけて来たんだよね

「『どこか楽しい所に連れて行ってくれ』って

「狐に話しかけるなんて、結構変わって……何でもないです

「それで、断ろうにも逃げられないくらいに抱き着かれちゃってさあ。
仕方なく人に化けて自分の神社に招いてみたってわけ

「でも何の交換条件もなくいろいろしてはあげられないから、君の大切な物が必要だった

「そう、いわゆる等価交換ってやつだ

「『その代りお兄さんにも君の大事なものを一つちょうだい』って、
ありのままに君に持ちかけたんだよ

「その結果が、これだ。

「当時、齢五歳の君にゃあ、“大事なもの”なんて自分自身か身近な家族ぐらいしかなかったんだろうね

「そんでこうなっちゃったってワケ

「何かご質問は?」









 何も覚えていない場合は、どうすればいいですか?

次の章へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ