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□魔王の子供と不幸遭遇率の関係性。
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この国には、「二度あることは三度ある」という、実にシンプル克つ実用的なありがたいお言葉がある。
だが私はこう思う。
――三度あることなら、四度目も当然の如く待ち構えているものだ、こと不運に関しては。

……本当に、昔から私はこんなのばっかりだ。
目の前の光景に内心で悪態をつきながら振り返る。
産まれたときから私の不運体質は決まっていたのだと思う。
こんなやつの……こんな男の幼馴染みなんて、自分で不運な星の元に生まれたとしか思えない。
だが、特に今日は酷かった。

今朝一発目の不運――玄関前にあった、野良猫が置いていったのであろう鼠の死体を踏む。
二つ目――スカートのホックが机に引っ掛かって千切れる。
三つ目――置いていた傘が誰かに盗られる。
四つ目――バレーボールをしていたら、棚に当たって私の周りにだけボールが散乱する。
五つ目――中履きが一度も話したことのないクラスメートと取り間違えられる。
六つ目――まともに話したことのない教師に雑用を押し付けられる。
七つ目――男子の投げた濡れ雑巾が顔面を直撃。 八つ目――掃除用具箱を開けたとたん、モップの柄が降ってくる。
九つ目――幼馴染みの男に鞄を奪われ逃走される。
そして二桁に入るきりのよさで、今この状況を挙げよう。
幼馴染みのチンピラ――男鹿辰巳が勝手に持ち去った鞄は今、男鹿の伸して土下座をさせているチンピラ共の下敷きとなっている。
……あーあ、あんなに血塗れになっちゃって。泥も砂も、大分入り込んでるんだろうなあ。
……洗わなきゃならんのかあ、あれ。男鹿に洗わせようかなあ。
そんなことを最早思考停止寸前の頭でぐちゃぐちゃ考える。
男鹿の予測不可能な行動による被害を受けたのは、今日に限ったことではない。
出会ってからほぼ毎日、奴は私の人生を悪い方向へと導いていくかのように悪逆の限りを尽くしてきた。
それでも今までやってこれたのは単に「運の悪さ」と「腐れ縁」のためだろう。
河川敷で思う存分暴れまわる男鹿を対岸から眺めながらイヤホンを耳につけた。
……ゆったりしたピアノ曲が流れる。
目の前の殺伐とした現実とのギャップが激しいが、ちょうど良い現実逃避だ。
ああ、良い天気だなあ。今朝少し肌寒かったから心配だったけど、予報通りの快晴となった。
川が、さらさらと流れ行く。水鳥の親子が優雅に水面を滑っている。
もう帰りたいな。せめて男鹿が私の鞄を返してくれたら私はこの地獄絵図の前からスキップしてでも帰られるのに。


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