Fe=x 大人≧x≧子供

□弐、二日月
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――side鶴丸国永

「主、俺と鶴丸との扱いの差が激しい気がするのだが」
「気付けて良かったな、三日月宗近。それは気のせいではない。
初対面で寝込みを襲われそうになった相手と普通に話しかけてきた相手とでは対応に差があるのは当たり前だろう」
「あなや」

演練へ向かう最中、三日月は審神者である少女に幾度となく話しかけていた。
それはもう、ウザイくらいに。

「鶴丸国永、こいつ、どうにかできませんか」
「諦めろ、審神者。そいつはしつこいぞ」
「それは何となく解りました。
大体、前任の替わりに慰み相手にこんな幼女を選んだ時点でかなりのペドフェリアかストライクゾーンの広すぎるタラシ野郎か依存症拗らせた阿呆しかないでしょう」
「言うねえ、天下五剣相手に」
「人からヒトの肉を授かって動いているうちは本体がなんであろうとただの人です。福沢諭吉も、勉強をちゃんとすれば人の上に立てると言いました。ならば、人として生まれてから何も学んでいない方々より私が上に立つのは当たり前です。
そして何より私は審神者です。束ねるモノとして、あなた方より上の権限を持っていなくてはなりません。」
「無茶苦茶だなあ……」

少女は、「どうとでもお言いください」とでも言うように、胸を張って鼻を鳴らした。
傍らに辛うじて立つ、正装した見目麗しい天下の三日月宗近は、精神が完全に重傷のようだ。
自業自得とは思うが、まさかここまでしっぺを返されるとは思ってはいなかったようで、少し不憫にも思える。
対する少女は、さも当然とばかりに、三日月に一瞥すらくれてやらない。
姿だけ見れば、駄々を言って拗ねているだけの子供だが、中身は十五の少女だ。

「本丸で何があったかは知りませんが、その後始末を私が受け持つことがおかしいのです。
政府には何を聞いても機密事項、本丸にいるはずの刀剣男士は挨拶にすら来ない、やっと現れた一匹目は盛りのついた雄犬で、あなたが現れなければこの本丸の正気を疑うところでしたよ。改築した礼も、一匹除いてまだ戴いていませんし。
私は野犬のブリーダーをしに来た訳じゃないのに!」
「あの、お嬢ちゃん?その言い方だとまるで俺ら野良犬みたいな……」
「見知らぬ者が出現しただけで尻尾巻いて逃げ回る野犬とどこが違うと?まだ人語が解せるだけマシというものでしょう。
三日月宗近がその代表と言うことで」
「まあ……一匹目が三日月ならなあ……。
今思うと、何故俺があのとき止めなかったのか不思議だぜ」
「後の祭りですね。
せめて第一印象をもっと良くしておけば、私もある程度猫を被っていたものを」
「嬢ちゃんにも被れる猫があったんだなあ」
「知っていますか?虎も獅子も猫の仲間なのですよ。
あんまりバカにしていると、そのうち私の猫パンチをお見舞いします」
「……そりゃ怖い」

少女の目が、血に飢えた獣よろしくぎらりと光る。
幼いながらも凛とした切れ長の眼差しで睨まれれば、恐ろしいこと受け合いだ。まして、相手はあの三日月に一矢報いた女である。

「正直、気は乗らなかったんだがなあ……。今目を逸らすとこのにゃんころに噛みつかれそうだ」
「にゃんころとは失礼な。虎でも獅子でも構いませんよ」
「五虎退も獅子王も既に居るっての。キャラかぶりも甚だしいなあ」
「豹でもピューマでも構いませんよ」
「……大阪のおばちゃんか?」
「アニマル柄は好みません。ただし、格好よく着こなせているならば話は別ですが」
「嬢ちゃんなら似合いそうだと思うがね」
「御冗談を」

そんなことをついぞ話ながら演練のエントリーを終える。
殆どが大人の審神者で、若くても十代後半の審神者ばかりで埋め尽くされる会場において、我らが本丸の審神者だけが異彩を放っていた。
その幼い容姿に加え、率いる刀剣は二本のみ。
しかも、それが「三日月宗近」と「鶴丸国永」だけ。
おまけに、刀の練度と審神者の練度が明らかにそぐわない。

「良い感じに注目の的ですね」
「良い感じというか……」
「悪目立ちと言うやつだな」

なんとか持ち直した三日月が勝手なことを言う。一瞬どきりとしたが、審神者は特に気にすることなく、口の端を吊り上げてにまりと笑った。


「大いに結構。目立てばその分宣伝効果も知名度も上がるもの。大衆の無害判定さえ勝ち取れば、こちらのモノですよ。審神者間でのネットワークに上手いこと取り入れれば尚のこと善し。
政府に潰される危険はなるべく排除しておきたいですから」

つまりそれは、そのまま『良い知名度』を上げておくということになりますから。
にゃぁお、と、猫と言うにはあまりに邪悪な微笑みを少女は携える。
人を嘲るその笑いを見て、彼女はただの猫ではないことを知った。
虎や獅子や、豹やピューマなんてもんじゃない。

あれは、化け猫の類いだ。


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