Fe=x 大人≧x≧子供

□肆、四日月
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――side???

暗闇だけが広がる世界で、俺は否応なしに孤独を感受していた。
一人っきり……なんだかその時間は、あまりにも久しぶりな気がする。
ずっと誰かが傍に居てくれていたような――。

けれどその孤独も、「寂しい」と感じる前に誰かに破られた。
何かの感触。
その感触は、今まで俺の近くにあったものではない微かなもの。
だが、それはなにか大事なものを欠落させていた。

×××

――side審神者

世には、カウンセリングという技術がある。
人為的に人間の精神を整えるための技術。
それはあるいは集団生活の中で大きな役割を果たすことになるのだが……残念ながら、私にはそんな心得は一切無かった。
審神者資格者が政府によって強制的に取らされる資格の一つなのだが、生憎と義務教育を受けていなかった私が取ったのは食育と裁縫と医療、特に応急手当くらいだった。
他にも色々本当は取らなければいけない課目があったのだが、小学校にすら入学できていなかった私のリハビリと義務教育に合わせて更に詰め込もうなんて無理があった。
おまけに審神者職は常に人手不足が問題になっている。資格保持者であっても、能力がなければ試験に落ちるし、精神的・肉体的に負荷のある「戦闘行為」を指揮するに辺り、平和ボケしている日本人には刺激が強すぎた。その為、自殺や離職も絶えないのが現状だそうだ。
更に、最近になり不等に刀剣を扱う、所謂「ブラック本丸」が目立ってきているため、「刀剣男士の人権保護」を謳う団体まで出てきて(ちなみに参加者は全員非審神者資格保持者だ)、「刀剣男士は刀ではない! 一人の人間、個人として扱うべきである!」として政府と審神者を敵視しているというのだからお笑い草だ。刀剣男士に関する情報の一切はかなり制限されているはずなのだが、政府の広報はどうしたのだ。
挙げ句「戦闘行為は違憲であり、戦争放棄の理念に反しているばかりか、人である刀剣男士達に人殺しをさせるとは」と宣っちゃいるが……いや、歴史修正主義者もだけど人間じゃないし。
――要は、精神的に自立した刀剣男士達にも本丸を纏め上げて指揮をする審神者にも、精神的支柱と定期的なメンテナンスは必要だという話。
政府の意向で、刀剣男士のメンテは審神者が、審神者のメンテは三ヶ月に一回の定期検診が……というように一応取りはかられているが洩れがあるのが事実。

――で、今。
その「洩れ」によって発生した不祥事の後始末を私が担当することになり早三週間。
正規の審神者がいるなら今すぐ教えてほしい。
正しいカウンセリングとやらを!

「……気は治まりましたか、堀川国広」
「うん……ありがとう、審神者さん」
「いいえ、担当する本丸の刀剣男士の精神の調整も審神者の義務です。礼には及びません……寧ろ、私から謝らせてください。なんの心得もなく貴方に勝手な処置を致しましたこと、心よりお詫び申し上げます。せめて他の審神者なら良かったのですが」
「そんなことはないと思うけど」
「加州清光……?」

今まで部屋の隅で傍観を決め込んでいた加州清光が話に割り込んできた。
そちらを一別すると、気不味そうに目を逸らす。蝋燭の灯りは仄かでよく見えないが、僅かに恥じらっているようでもあった。

「堀川はあんたに感謝こそすれ、傷ついたわけでもなければ怒ったわけでもない。
俺は――少なくとも、俺から見れば、主のしたことは間違っちゃいないと思う」

多分、と小さな声で付け加えられれば、自然と私の体の力も抜けた。

「なら良かったです。そう言って貰えると、主冥利につきますね」
「なっ……――!なに言って――!!」

慌てて私に弁解しようとしているが、もう遅い。
さっきから私への呼び名が「審神者」だの「ガキ」だの「クソガキ」から「主」に代わっていることに気づいていないとでも思っているのだろうか。
蝋燭の火を反射しているわけでも何でもなくただただ羞恥に赤く染まる顔を覆いながら「そんなつもりじゃないんだって!」と言い訳する加州清光の姿に、堀川国広がくすりと笑った。

「あああっ!なに笑ってんの、そこぉ!」
「ごめんごめん……あははっ、だって加州、必死過ぎて!」
「ちょっとぉ!」
「二人とも、深夜ですのでお静かに……これ以上私の評価を貶める行為は慎んで下さい」

しー、と人差し指を唇に当てて注意する。

「うっ……ごめん」
「ご、ごめんなさい」

素直に従う彼らに満足しながら、私は背後の障子を少し開けて様子を伺う。
……今のところ、敵襲などはないようだ。


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