Fe=x 大人≧x≧子供

□伍、五日月
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「体を清めます。堀川国広、手を洗ってからこのタオルで拭きなさい」
「はい!」

ふう、と一息つく。
もはや感覚の一つでも残っているのか不思議な、ぼろぼろの体。
現世の医師に連絡を取ろうとしたら、こんのすけに断られ、どうすればいいのかもう私にはさっぱりわからないが……。できるだけのことはすべきだろう。
演練へ行くように指示だけ出して手入れ部屋に引き返していく私の姿は、彼らにはどう映っただろうか。
大して気にはしていなかったが、願わくは好印象なものであってほしいものだ。
時刻は十三時、昼飯時だ。
すっかり重くなったごみ袋には、和泉守兼定の髪と包帯の残骸が詰まっている。
消毒液が必要だな、と私は何となく考えを巡らせた。
不幸中の幸いと言うべきか、蛆の湧いた辺りの傷口の腐った皮膚は、蛆が食べていたためにそのものは綺麗だ。
……あ、そうか、蛆を摘まみ出すためのピンセットも用意しなければ。
思い出したように立ち上がると、足に違和感を覚えた。
和泉守兼定の右手に残った唯一の親指が裾に引っかけられているようだ。

「ぁ……んた、ぁぃつ……を、……くにひ、ろ、……た……のむ」
「……意識が戻られましたか」

聞こえているのだろうか、和泉守兼定は焦点の合わない目で私を捉える。
だが、返事はない。
しばらく見つめ返していると、もう一度掠れた声で「……たのむ」と言われ、さらに強く裾を握りしめられた。

「解りました……貴方の願い、しかと聞き入れましょう」

再びしゃがみこんでその手を握れば、安心したのか、力はすぐに抜けていった。
返事を聞けて満足なのか、その瞼も閉じている。
もう一度、手を強く握る。
死なせたりなんてしない。私の本丸で、刀剣破壊なんて、この体にかけて許さない。


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