Fe=x 大人≧x≧子供

□陸、六日月
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――side加州清光

「審神者さん!僕にも何か出来ることは……」
「ありません」

バッサリ、と擬音がつきそうなほど端的な返事。主の後ろの入り口に控えていた俺は、二人に聞こえないように溜め息をついた。
発端である堀川や俺でさえこうして部屋の入り口に追いやられているというのに、なんというガッツ。
その視線に気づいていないのか、尚も食い下がる安定に、主は何を思ったか「解りました」と答えた。

「お湯を沸かしてきなさい。そこに蹲って見張りをしている加州清光が方法を知っています」
「なっ……」

思わず立ち上がって反論をしようとしたが、くるりとこちらを向いて「出来ますね?」と睨んできた。
……俺にどうしろと言うのだ。
主は、俺が安定と一悶着あったことを知っていてそんな提案をしているのか?
この人ならあり得るかもしれない。
なにせ、俺たちが捕まった時も「岩融がいたら二人がかりで大男をひいこら言いながら運ぶ姿を見れると思って楽しみにしていたのに」と平然とした顔で言っていた、あの主だ。何を言い出すか分かったもんじゃない。
……根は良い人なんだろうけどなぁ……。
そろそろと安定に目を向けると、俺とは違いやる気満々の顔でこっちを見ていた。

「……わかったよ。鍋は?」
「ここにあります。大和守安定は、午前の演練があるでしょう、時間が来たらすぐに抜けなさい」
「加州、僕も一応審神者さんの『刀』になったから、安心して行ってきなよ」
「……そう、ならいいけど」

何を勘違いしているのか、堀川がにこやかに俺に促した。
いやいやいや、気付いてよ。俺の顔見て空気読んでよ。
そうは思ったが、流石に口に出すわけにはいかない。

「……わかった、行ってくればいーんでしょ?そう睨まないでよ」
「わかればよいのです」

主は子供らしからぬ(といっても中身は十五歳の早熟な女の子だが)口の端だけ吊り上げた笑みを見せた。
つくづく、何を考えているのかよくわからない子だと思う。
俺は安定と一緒に廊下に出て並んで歩き出した。


「審神者さんとなんかあったの?」

手入れ部屋から離れて暫くすると、安定がこちらを見ないまま尋ねてきた。

「さーね。ま、大体お前の想像通りじゃない?」
「それって……」

と、そこで言葉が途切れた。
廊下の向こうから、勢いよく走る足音が聞こえたのだ。
それは、改修のされていない西側からのもので、段々と近づいてきている。

「……敵襲?」

 管理の甘い本丸で、決壊を破って敵が侵入することはままある。
眉を潜めながら言うと、安定が腰を低くして、本体の柄に手をかけた。俺も続いて、カチッと鞘から鍔を親指で押し上げる。
……だが、そこに現れたのは、味方であるはずの三日月と鶴丸だった。
なぜか、三日月の手にはこんのすけが抱えられ、「あ〜れ〜」と情けない悲鳴をあげている。

「鶴丸さんと三日月さん!?……と、こんのすけ!?」
「なっ、どーしたの!?」

構えを解いて二人に話しかける。
だが、凄い速さで廊下を走る二人は止まろうともしない。

「すまねぇ二人とも!話は後だ!来るなら二人も来い、きっと驚くぜ!」

通りすがりざま、鶴丸が笑いながら声をかけていく。
後にはこんのすけの「あぁ〜れぇ〜……」という情けない声だけが残っていた。
思わず、二人で顔を見合わせる。あの二人が今度は何をするつもりなのか、少し気になる。
だが、安定の目は俺の比じゃない程煌めいていた。……こうなればもう止まりそうもない。少し面倒臭い気がしないでもないが……。

「……行く?」
「勿論!」

元気よく頷く頷くそいつに呆れながら、俺たちは揃って今来た道を小走りに引き返すのだった。



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