Fe=x 大人≧x≧子供

□拾、十日月
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「だから、可能性の話を口走っただけです。『かも』って言ったでしょう?」
「だとしても! いきなりそりゃああんまりじゃねえか!?」
「私に言われても困ります。政府に命令されたら、『受けとる』か『嫌々ながらも受けとる』かの二択しかこちとら予め用意されてないんですよ」

詰め寄られた私は仕方なく、『代表者で話し合いにけりをつけよう』という獅子王の提案によって二人で向かい合っていた。
他の者は一応退席させているが、和泉守兼定は私に『万が一』何かが起きたときのための盾となるために同席させている。
本来山姥切国広も交えるべきなのだろうが、彼は私の発言で軽い錯乱状態になってしまったため一時休憩中だ。弱い奴め、私の元に来たら空から大岩が降ってこようと動じない精神力を身に付けさせてやるから待っていろ。

「それに考えても見てください、この事態は『あちら』にとっても不本意なはず。これを逆手にとって一気に停戦交渉を進められるかもしれません」
「ああ、今剣にはな! だが、一期一振は駄目だ。あいつは手段を選ばないどころじゃない! 本来、最低限必要な過程も手段も不必要と判断次第ぶっとばすほどにイカレちまってる。今のあいつに、誰かの話が――それも、直視したくない現実の話が――聞き入られるほどまともな神経になってない」
「なるほど、病んでグレた反抗期の餓鬼ですか。始末に終えませんね」
「ああ! そーだな! どっちみち、この本丸は長くなかった、それはわかってる! だが、だけど……なんとかならねぇか? 審紳者よ」

そんなことを言われても、もとより壊滅寸前だったこの本丸に不完全な審紳者である私を放り込んだ時点で、上の意向は大方決定していたのだろう。だから、あちらとすれば予定が少し早まっただけ。
もしかしたら、こうなることを見込んで不完全な審紳者を起爆剤にするために送り込んだのかもしれない。
そりゃあ、事情を直前まで話せないわけだ。誰だって、そんな気軽に審紳者をやっているわけではない。こんなご時世、審紳者資格保持者というだけで殺される確率がバカ高くなるのだ、自衛を兼ねた本来経営はそれだけでかなりの安全を約束される。
しかも、本来本丸は一生に一ヶ所を回すのが普通。二ヶ所以上過去に代わっていれば、一度失敗したものとして見られ、格差が生まれるのは勿論のこと、失敗したと上から判断されれば碌なところに飛ばされない。使えない人材にいつまでも金を支給するほど政府は安くできていないのだから。
では、私の場合は?
――最初から、駄目でもともとの役たたず認定。だからこその、こんな消耗品のような扱い。
それでもきれるカードがあるだろうか……?

「……失礼します、お話し中すみませんね」

と、私たちの会話の間を埋めるように座敷と廊下を繋ぐ襖が僅かに開いた。
薄桃色の長髪に、か細くやや高い声……。宗左左文字だ。

「どうした、何か問題でも?」
「いえ、むしろわりと良い報せかと。……三日月と鶴丸の所在が判りました」
「やっとか!」

その会話に、私は自然と難しい顔つきになる。

「まるで、じきに知らされるようだった口ぶりですね」

言外に「情報があるなら先に言え」と告げると、獅子王もまた、私に倣い難しい顔で謝る。

「わりぃが……こっちもこっちで色々あってな。どこで誰が聴いているかわかんねぇんだ」

つまり、情報源は言えないと。
それにしたって、「どこで誰が聴いているかわからない」とはどういうことか。ここはいつから忍者屋敷になったんだ?

「一期一振は、機動力と隠密性に優れた弟たちに隠密と諜報の仕方を教え込んでいる。さらに厄介なのは逃走の早さだ。何があろうと絶対に折られることはあってはならない、とな。前任の一番最悪な時代を間近で見ながら生き抜いたあいつらは、長兄に一生の恩を抱いて一期一振の五感すべてになる。……粟田口は、歪な方向へ特出しちまってるんだよ」
「下らない共依存にしか聞こえませんが」
「そうするしか生きる道はなかったんだろうさ。脇差も短刀も、真っ向からなら打刀や太刀には敵わない。だが、機動力と隠密性において勝るものはないからな」

そうですか、と一つ頷き、私は獅子王の横に置かれた本体をさっと拝借した。


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