夢に溺れる。

□二。出勤
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学校の校門前で、スーツ姿のお父さんが泥だらけのシルバーのワンボックスカーと共に私を迎えた。

「すまねえな、帰ってすぐだっていうのに」
「気にしないでよ。だって、私の個性が無いと捜査が進まないくらいには無能な集団なんでしょ?」
「…………結構忙しいんだよ、これでも。
お願いだからあいつらの前ではそういうことは言わないでくれよ……」

否定はしないのか、お父さんや。
短い黒髪をぴっちりとオールバックにしたその姿は、どことなく某二人組刑事ドラマの主人公の姿を彷彿とさせる。
最近は年齢と過労もあってか白髪も増え、元から(刑事だというのに)線の細い体と高くは無い身長も相まって益々雰囲気が似てきている。
これで推理力もあれば完全だったのだが、生憎とお父さんは精神年齢二十代の熱血直情馬鹿だ(実際年齢四十半ば)。
推理担当は、私の父。
今は、及ばずながらも私が担当させていただいている。推理というか、ただただ個性を使ってそこから被害者の記憶(夢)を引っ張り出して犯人の名前を当てるだけだ。
本来の地道な捜査より手続きやら申請やら許可やらはだいぶ多いが、コストパフォーマンス(人件費)と全体にかかる時間とを思えば圧倒的に効率的である。
特に、「個性犯罪」という新たなカテゴリーが一般化している今、容疑者が浮かばないどころか下手すれば被害者の遺体そのものや、証拠品が諸々紛失することも稀にある。
超人社会でかなりの被害を被っている組織の一つに警察が挙げられることは確かだろう。先月なんて「食人」なんて個性を持ったトンデモ殺人鬼がいたせいで特定に時間がかかってしまった。
小学時個性一斉把握テストを行っていないであろうそいつは、あろうことか妖怪「垢舐め」宜しく現場に残っているはずの髪の毛一本、垢の一つまで舐め切ったものだから、現場は一時「犯人のものであろう唾液しか痕跡がほとんど出てこない」と困惑したらしい。
しかもそれが無差別に三件立て続けに起こったのだから、捜査しようにも相手の戸籍も個性もはっきりせずついこの間まで膠着状態に陥っていたとか居ないとか。
今はその犯人も私の手柄によって大人しく拘置所で自分の裁かれる番を待っているのだろう。
さすが私。捜査の要。
大学卒業したら警察庁のキャリア組で駆け足で昇進してやろうか。
たまに二捜などの他の課へ手伝いにも駆り出されるので、そちらに志願してもいいかもしれない。
お父さんにそう言うと「冗談きついから止めてくれ」と苦笑が帰ってきた。

「あっちもこっちも人手不足なんだよ。最近じゃ(ヴィラン)受け渡し係、なんて揶揄されちゃいるが生憎と事件の捜査権はヒーローではなく警察にあるからな」
「またまたそんなこと言って。オールマイト人気に即して増えた正義感溢れる若者(笑)のうちの弱小個性が流れつく職業として自衛隊の次に名前が挙がってるのが警察だってお父さん分かってる?」

自衛隊――。
ヒーローに役職がそれなりに被るこの職業は、それこそヒーローの栄光の陰に隠れてほとんど姿を現さない、今となっては日陰で活動する組織のように言われてはいる。
だが実際のところ、ヒーローという「個性」に関する職業ではないものの、活動内容自体はかなりヒーローと似ていることから、ヒーローに向かない「個性」を持つ人の多くは自衛隊や警察、海上保安庁なんかに夢を持ったりしてしまう……らしい。
実際は、大規模災害なんかの現場での指揮権は警察・消防・自衛隊なんかが未だに残っている。免疫細胞で言うところの好中球といったところか。つまり、ヒーローは数が多くて個々の力がそれなりにある即効性その場しのぎ。だが、現場に躍り出る派手な第一部隊は花形、人気商売ではあるのだろう。

「そうだな。方向間違えた正義のヒーロー気取りなら何人もいたよ。残ったのはほとんどいなかったがな」
「ヒーローほど甘くは無いからねー。ノンキャリア組なんて全然いないでしょ」
「それがなぁ。結構いるんだよ。試験合格まで至らず……って奴がな」
「けど一応成績と行動力はある、正義感はき違えた若輩者」
「お前が言うなよ」
「あら?これでも一応お父様より経験豊富だと自負しておりますけど?だって他の人間は一度だって死んだこともないんでしょ?」
「そりゃあ、お前なぁ……。大体の人間はそうだろうよ」
「ゾンビが個性の人間でもいれば話が噛み合うと思うんだけどなー」
「今のところそんな個性は確認されてねーよ。高望みをするな」


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