夢に溺れる。

□三。仕事
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明らかに、どう見ても、どんなに考えても。
目の前にある物は変死体以外の何物にも見えなかった。

「お父さん……、これ」
「わりいな、いつも」

すまない、と謝罪するお父さんに私は「いいよ、大丈夫」と言ってからまた死体に目を戻した。
検視室。
温かさの無い事務的な灯に照らされ、薬品独特の臭さのあるタイルの部屋で、私たちはご遺体と対峙した。
私とお父さんの他に、白衣の方と手術着の方が数名、そしてスーツ姿がざっと三名……
だったのだが、先ほど若い女性が「うッ……」とハンカチで口元を抑えて部屋を出てしまった。
きっと、入ったばかりの人なんだろう。

「あいつに比べ、すごいねえ喪汐ちゃんは。場慣れしてるなぁ」
「褒めても何も出てきやしませんよ、軽々さん。さっきの方は慣れていないのだから仕方ありません」
「とか言っちゃって、君は最初っから普通に見てたよね」
「別に、あれが初じゃなかったですし。初物はお母さまから授かりましたので」
「ブラックジョークだねぇ」
「アメリカンジョーク、じゃないんですか?」
「さすがのアメリカ人でもそこまで趣味悪くないでしょ」

しばらくして、新米女性刑事が戻ってから検視官の説明を受ける。
手術台の上に横たわる女性。
白魚のように生白いその肌からは生気なんて感じられるわけもなく、乾いた蝋のように白熱灯の光を弾いている。
豊満な胸も、はっきりと括れた腰も、長くて形の良い脚も。異性に媚を売るアドバンテージであるはずのそれは、彼女の首から上の惨状によって全てが悪夢的な人形のようになってしまっていた。
ズタズタの、ボロボロに。



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