夢に溺れる。

□四。沈殿
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 大体の説明を受け、死亡状況の予測を整えてから私は新米さんを連れ、入院着に着替えてから病院へと場所を移した。

「病院……ですか。随分大掛かりなんですね」
「最初は、警察の仮眠室を使っていたんですけどね。許可とるときに“それじゃダメだ”って上の方々から進言されまして。お陰様で毎回脳波測りながら体中導線だらけになって人目に晒されて寝なきゃいけないんですよ。全く、思春期真っ盛りの子供に何やらせてるんだっての」
「思春期真っ盛りの……子供?」

ありえない、みたいな目で見るのはやめて欲しい。
これでも、体は子供なのだ。
サンデーの某名探偵も言っているじゃないか、『体は子供、頭脳は大人』と。
つまりはそういうことである。
最初は小学校の国語の時間に『女』の一文字の書き方一つでだいぶ担任の先生と議論していたあの名探偵が今ではすっかり小学生に馴染んでサッカーやったり捜査やったりしているのと同じように、体に精神は引きずられるのだ。
その担任の先生も、某警部補と共に今やほとんど姿を現さないし。あの半目の、厭味ったらしいエリート警部補。
ついでに、あの幼馴染ちゃんたち含め高校生組はいったいいつ勉強しているのだろう、あんなにほとんど毎週全国各地に引っ張りだこじゃあ、寝る間もないのではなかろうか。
 
――とまあ、それはさておき。
青春の気配こそ感じないが、自分の体や行動を名も知らぬ大人に見られていると感じると不快な気分になるくらいには思春期をやっているのだ。
そのことを説明すると、新米さんは「ああ、なるほど〜」と感心したような声を上げていた。

「なんだか年齢分かりにくくって……高校生かと思いました」
「ええまあ、あと一年もすれば高校ですね」
「へえ。……じゃあ受験生かー、懐かしい」
「そうですねー」
「どこに進む予定なんです?」

う、と一瞬言葉に詰まった。
正直、決めていない。
進路を早く決めろと親やら教師屋らからも口煩くせがまれているのだが、まあ提出物一つ(イベント関連以外は)まともに出していない私が素直に出すと考える方がおかしい。
と、言うことで口頭ですら希望の進学先を伝えていない。
いや、近くの高校でいいんだけどね。
言うことすら面倒なだけなんだけどね。
それに高校受験なんて就職に比べれば屁でもないなんて今までの有り余ってしまっている他人生経験のおかげで理解しているから、学園祭とか体育祭とさして変わらない行事なんですがね。

「そうです、ね……うーん。友人が雄英の推薦狙ってるので、私も入ろうかなと」

考えてみたり、みなかったり。
すると、新人さんの顔がぱあぁっと華やいだ。

「私、雄英の一般科だったんですよ!先輩から、喪汐ちゃんはきっと警察官志望だって聞いていたので、もしよければ受験勉強でも何でもお付き合いしますよ!」
「……はぁ、ありがとうございます(?)」

めっちゃにこにこしてる。
可愛いな、この人。彼氏とか居るのかなあ。
……私、男も女もなったことがあるから実のところどっちも好きなんだけど。
問題はこの人のストライクゾーンに女子も含まれているかどうかだな……。

めっちゃ天然人たらしな感じのお姉さんだなあ、とか思いつつ部屋に入る。
決して、食べちゃいたいとかそんな不純な感想は持っていない。
持っていない。
せいぜい、なでなでしたいなあ、位だ。
断じて、抱きしめたいとか思ってない。
思ってないんだからな。
しかし、どうやって囲い込もうかと考えながら台の上に寝そべる。
手首やら背中やらに色々取り付けられ、最終的には導線がうじゃうじゃと触手のように伸びたヘルメットをかぶせられる。
準備オーケー。
ここに来る前に服用した睡眠薬の効き目もだんだんと出てきた。
私は被害者の遺品である腕時計を握り、目を瞑った――。

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