夢に溺れる。

□六。準備
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私の進学の目標が、雄英高校一般科に定まったのは、すぐだった。
 色々世話をしてくれるという新米さん――後に、切崎さんというらしいと分かった――は、嘘は言わなかった。
 と、いうのも。
 仕事に行くたび、空き時間に勉強を教えてくれるのである。
 なんてできたお姉さん。
 こんなお姉さん、一家に一人いたら全てにおいて事足りる気がする。
 料理もできるし、掃除もできるし、しかもなんとまあこのルックスとプロポーションで年齢=彼氏いない歴、だというのだ。
 なにそれ、おいしい。
 貰っちゃってもいいのか?
 我が家に一人は欲しかったんだよ、切崎さん。
 なんたって、私もお父さんも料理ができないので。
 年の差結婚とか、切崎さん相手なら許すぞ、お父さん。

 そんなこんなで、雄英に無事進学。
 ここ数年、私が他人から搾取した人生経験の多さは伊達ではないということだ。
 離れ離れになることを一時期危惧していた焦凍君との仲も、無事に取り持てた。
 めでたし……するわけには、さすがにいかないけれど。
 高校は自然、名古屋になってしまうが、安全上の問題やらなんやらで、私の身柄は以前から時々お世話になっていた警視庁に預けられることとなった。
 つまり、東京都へ上京することになる。もちろん、これも安全上の理由から一人ではない。
 ……なぜか、お父さんではなくその後いろいろ縁のあった切崎さんを連れて行くこととなった。


「いやぁ、すみませんね切崎さん。私のためにわざわざ……」
「いいですよ、仕事ですし。 夢死さんの大事な娘さん預からせてもらっている立場というのは若干緊張しますが……。
東京は、私も住んでいたことがありますし、何より雄英は母校ですからね!」

 切崎さんの黒髪ロングが、こてん、と首を傾げるたびにさらさらと流れ落ちる。
 何あの生き物可愛い。
 めっちゃ撫で撫でしたい。
 そんなことを思っていると、父が私の後頭部に連続でデコピンを入れてきた。

「おい、俺の後輩に何する気だテメエ」
「え?ラブラブ同居で新生活つつつっったいたいたいたい痛いですお父様御免なさいなんでもありません」
「間違っても禁断の関係とかなるなよ、エロガキ」
「エロガキって……ゴミ捨て場にあったグラビアを小学生と呼んでただけじゃないか!」
「小学生男子並みのエロガキってことだよ阿呆!」

 グラビア読んで何が悪いというんじゃ。
 だってあのお姉さま方のプロポーションといったらもう。
 ボンキュッボンにあこがれ無い訳じゃないんだぞ!

「全く、すまんな切崎」
「いえ、大丈夫ですよ。喪汐ちゃんのやり口は大体理解したので」

 対策も考案済みだよ、と笑顔で諭された。
 ちくしょう、女同士とか言ってセクハラしたのがまずかったか。

「いや、後輩に既に手を出してんじゃねえかお前」
「まだ最後までいってないから許してくれ。今度から、頭撫で撫でするだけにするから」
「それぐらいだったら、まあ……」
「やった、切崎さん!一緒にお風呂入りましょうね!」

 お父さんから拳骨を食らった。
 なぜ。

「どうどうとセクハラする手段を公言してんじゃねえっ!!」

 あらやだ、お父さんったら。
 言わなきゃよかったのか、じゃあ今度からこっそり背後から抱き着くところから始めよう。
 なんて画策していると、後ろからチョップをかけられた。

「いったぁ……って、焦凍君!!??」
「……阿保」
「いや、まずは挨拶しようよ、こんにちは〜」
「おう」
「私の扱いが!!だんだん雑になっている気がするのは!!私だけですか!?」
「煩い……」

 何故いるのか聞けば、「家の位置を把握しておきたい」とのこと。
 変わらぬ友情に感謝。
 っていうかちょっと待て。どこから聞かれてたんだ!?

「『ラブラブ同居で新生活』のあたりから」
「のおおおおぉぉぉぉっ!?」

 それほとんど最初からじゃないか。

「うわ、はッず!恥ずかしッ!!」
「羨ましい」
「……は?」

 顔から火が出そうなほどになっていた私を見て、焦凍君がボソッと一言。

「俺も実家から離れたい……」
「あー、そっち……。私の期待を返したまえよ……」
「?」
「何の事だか解っていないようだが、可愛いので許す」
「おう……?」


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