夢に溺れる。

□八。予感
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私が通う高校には、食堂がある。
それも、かなり大規模の。
こうなると、焦凍君以外に友と呼べるような人のいない私としては困りものだ。

「先生もその口ですか?」
「ちょっと、私をボッチだって言ってるわけ?」

饂飩(うどん)を摘まむ箸を持ち上げると、視線の先に座る美術のミッドナイト先生の手錠が「シャラン」と美しい音をたてた。
眉をひそめながら髪をかき上げて、熱々の面に息を吹きかけ冷ます姿は、言っちゃあなんだがなんとも色っぽい。

「滅相もございません。こんなお美しい方がお一人でご昼食を召し上がるなんて勿体ない。
そんな事よりも、よろしければお隣に座らせていただきたいのですが?」
「かまわないけど……お友達とか、誘わなくていいのかしら?」
「それは言わないお約束ですよ、先生」
「そんな約束、聞いたことないけど……」

先生と相対するように席につく。
すれば、ちょうど先生の背後から、蕎麦を啜る焦凍君の姿が見えた。
 視線が合わないことに気づかれたのか、不思議なものを見る目で覗かれた。

「あら、なにか見えるのかしら?」
「ええ、私の愛しい親友の姿が」
「さてはあんた、それを目当てに座ったわね」

なんのことやら。
私はそう言って肩を竦めたが、実際そんなことでもなければ、誰が好き好んで教師と一対一で昼食なんぞとるか。
しかし、これがむさい男性教師なら考え物だが、むちむちセクシーアンドグラマーのミッドナイト先生と私にとっての天使・轟焦凍のお得な詰め合わせである。
視界が至福過ぎて辛い。
すでにお腹一杯な感じだ。

「あんた、それだけなの?」

ミッドナイト先生が、私の昼食を指して言う。
私の盆に乗っているのは、ハーフサイズのラーメンと一杯の水だけだ。

「このあと、公欠とらなくちゃいけないんですよ。後二十分したら出なきゃいけないので、時間的に難しいんです」
「ああ、そういや言ってたわね。警視庁のほう?」

 ミッドナイト先生が、箸を止めて私に尋ねる。
 この学校の職員には、私の都合のことは既に説明済みだった。
 同じ、国に努める者のはしくれとして、情報の共有はしておいた方が有利に事が運ぶということ。
 そして、国の警察機関の中枢に身を委ねることと私が義務教育を終えたことを考慮し、平日の日中にも「公欠」として「出勤」することになったのだ。
 要請があればいつでもいくらでも出動する。
 全ては、父を継ぐため、『集団的な、法の為の正義』を執行するために。
 ……だからと言って、週三で半日勤務はなかなか忙しいものである。
 学生と二足の草鞋ともなれば、当然だ。



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