植木鉢(またはオリジナル短編・中編集)

□変人二人、放課後。
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×××


 正直に言ってしまえば、自分はこの場から東を追い出したかっただけだった。
 三斗センセの弱味、という極上の獲物はあいつにとって出席点ほどの価値があることを自分は何となく理解してはいたが(あいつにとって評定は人生のようなものだ)、あいつの友人が少なくてこれほどまでに嬉しかった事は無かった。
 東には、だいぶ申し訳ない気もするが、危うく眼球に当てられそうになったデコピンでおあいこということにしておこう。
 本当、いい友人見つけられて良かったな東。
 自分で言うのもなんだが、自分ほどお前を扱える奴なんざそうそういないはずだ。目には目を、歯に葉を……変人には変人を。
 昇降口で東と別れ、忘れ物をしてきたと言って美術室に一人で戻った。
「……やっぱり、紗伊のスケッチブックだったか」
 見事、あいつの推理とも呼べないような勘は的中していたわけである。自分は計六冊のスケッチブックを、日も落ちてすっかり暗くなった準備室で灯もつけずに引っ張り出した。
 三斗水令の、スケッチブック。
 実を言えば、自分は三斗センセが学校に教師として戻ってくる以前からあの人のファンのようなものだったのだ。
 自分が美術部に入るきっかけを与えてくれた人。
 この山の麓にある、一枚の画用紙。
 その絵に自分は憧れた。
 自分にしては平凡な理由だと思うが、それもまあ致し方ない。自分は六冊のスケッチブックを鞄に入れた。
「つくづく悪いな、東」
 自分もお前に嘘をついていた。
 鞄の口は、横の長さより少し短くなっているため、鞄の容量さえ空いていれば割と簡単に入れることができる。自分は基本置き勉をしているため、バックは常にスカスカなのだ。
 自室で、そのスケッチブックを開けば、理由はすぐに釈然とした。放課後、自分が東にでっち上げた動機ではなく、おそらく本当の目的。
 そもそも思い返してみれば、あんな動機では何故二人分のスケッチブックが隠されたのかもわからない。
 けれど、このスケッチブックの中には。

 まず、三斗センセのスケッチブックを開いた。次に、並べて「T.S.」のイニシャルの入ったスケッチブック。
 ――そこには、制服姿の三斗センセと、その横で微笑む紗伊の人物デッサンがあった。
 ほとんど同じ構図のそれは、どう見てもバカップルのそれだ。イニシャル入りのスケッチブックからは、最後のページからその構図の元になったのであろう写真が出てきた。
「犯人は、結局どっちだったんだ……?」
 はあ、と息をつく。
 自分は、こういう考えることが苦手だから東に代わってもらったというのに。これでは明日、謝罪をしながら懇願する羽目になるではないか、と。
 ……今度は左目狙ってくるかな、あいつ。
 いざとなったら自己防衛手段として伊達眼鏡くらい買わなければいけないかもしれない……。

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