植木鉢(またはオリジナル短編・中編集)

□異世界ファンタジーな話。
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ざわざわと森の木々が風に揺れる。
暗い道を急ぎながら、少女は両手に抱えた本をギュッと強く握りしめた。
本の重厚な表紙には「魔域研究 入門〜中級」と記されており、ページからは折れてよれよれになった幾枚もの付箋が乱雑に重なりあっている。それらは、ここにたどり着くまでの彼女の努力と執念を感じさせた。
今月十六を迎えたばかりの少女――ラニャは、イネヅェヴィー神王国極東の山岳地帯のふもとの小さな村の生まれだ。十三から出稼ぎのために半日かけて通っていた東の街、そこから更に一日かけて、魔物も多く存在するとして危険視されている「眠らずの森」へ訪れた。

――この世界には大きく分けて三つの領域がある。
人間の生活区域である「人界」、神々や精霊の棲む「聖域」、そして彼女が足を踏み込んだ魔物の巣食う「魔域」。ラニャの生活するイネヅェヴィー神王国にはそのうち二つの、人の踏み込めない領域が、他国との境界に広がっているのである。
同じ世界の中にありながら「魔域」にはほとんどの人間が踏み込まない。なぜなら、その領域に生きる生物の全ては、「魔域」に満ちる瘴気にあてられて人智を超えた異様な進化を遂げ、「魔域生物」、「魔物」と呼ばれ、恐れられているからだ。魔物についてわかっていることといえば、凶暴性が高く個体数が少ないこと、そして異様に生命力が強く、寿命も数百年単位であることくらいだろう。
そしてその特性は動物に限ったことではない。魔域に生息している限り、植物すらも特殊かつ異様な進化を遂げる。中には、意志を持ち人間を襲い、食すモノもある。
魔域の動植物は皆珍しいモノばかりであるため、それらを手に入れようとする人間は少なくない。だが、生態も習性もほとんど不明なまま魔域に踏み入り、消息を絶った者もその数とほとんど変わらない。
そんな危険になぜ年端も行かぬ少女が立ち向かっているのか。――それは、彼女が幼い頃に見たとある旅団に起因する。


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